弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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ドーピングはなぜ禁じられるのでしょうか。

 正直に告白すると、私はドーピングがなぜ禁止されるのか、よくわかりませんでした。すっと腑に落ちないのです。
 スポーツの本質の一つとして限界を追い求めていくということがあるのならば、ドーピングを禁止せずドーピングも含めて「何でも有り」で限界を追い求めれば良いのではないかとも思えたのです。
 また、ドーピングは誰か他者の人権を明確に侵害しているとまではいえないので、それは明らかに悪いことだといえない難しさがあると思います。

 一般に、ドーピング禁止の理由として、(1)フェアプレーの精神に反する、(2)アスリートの健康を害する、(3)反社会的行為である、ということが挙げられます。
 これらの理由には、表面的には納得がいくものの、胸を張ってこれらを人に説明できるかと言えばとてもそんなことはありませんでした。
 (1)については、「そもそもフェアプレーって何?」と問いたくなります。フェアプレー精神の定義の中には「ルールを守ること」というものもあり、ドーピング禁止というルールを決めるのに、ルールを守ることが理由となっては論理が循環してしまいます。
 (2)についても、多かれ少なかれトップアスリートは健康を害するか否かギリギリのところでハードなトレーニングしているわけで、これを理由にするのは難しいと思います。
 (3)反社会的行為というのも、日本の社会が反ドーピングに対してどれほどの認識・理解があるかといえば、心許ない限りです。

 ところが、自転車界の内実を書いた「シークレット・レース」(タイラー・ハミルトン、ダニエル・コイル 小学館文庫)を読んで、ドーピングというものの罪深さが少なからず理解はできた気がします。
 この本では、つい最近まで、自転車界ではドーピングをすることなしにトップサイクリストとしてレースの上位にいることは限りなく不可能であったことがリアルに綴られています(この本は、読み物として優れているだけでなく、スポーツとは何かということまで考えさせてくれ、お薦めです)。
 自転車界では長らく、ツービートの「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というギャグを地でいっている感がありました。ただ、当時のトップサイクリストは、ドーピングをして楽をしていたわけではなく、ドーピングをした上で凄まじいトレーニングをして、その座を維持していたのです。そして、自転車界では、ドーピング禁止という赤信号を無視して渡らない限りは、対岸のトップサイクリストの地位に辿り着けなかったのです。しかも、その赤信号はいつまで経っても青に変わらず、ドーピングをしないことは残念ながらトップサイクリストの地位を諦めることを意味すると信じられていたのです。

 このような不幸な状況を打開するために、やはりドーピングは禁止せざるを得ないし、禁止すべきなのだと思いました。
 ただし、だからと言って現状のようなトップアスリートに対する度を超えた監視や厳しすぎる制裁を課すことが本当に必要なのかはまだまだ議論の余地があると思います。ドーピングを巧妙に行う側とドーピングを何としても規制しようとする側とがイタチごっこをして、これまで圧倒的に前者が後者を出し抜いていたがために、このようなとりわけ厳しいルールとなったのかもしれません。
 とはいえ、現にルールとして存在する以上、アスリートとしてはドーピングに関するルールを遵守せざるを得ません。私が第一になすべきことは、アスリートにドーピングをしている認識がないのにうっかりして陽性反応が出るようなことが、間違ってもないように、アスリートの注意を喚起することだと考えています。一度、陽性反応が出ると、これを覆すことは相当困難であり、仮に覆ったとしても、ダーティーなイメージが残存する可能性が高いからです。

 一部のトップアスリート(トップクライマー)には、基本的な仕組みや気を付けるべきことを話しました。まだまだ、若いこれから世界で活躍しようとしているアスリートにドーピングのことを知ってもらう必要があると思っています。
 ドーピングにまつわる事柄はとかく後ろ向きな感が否めませんが、事が起こってからでは殆どの場合は手遅れである以上、アスリートはドーピングに常に関心を持ち、常に注意していただきたいと思います。
                                                              

 

 

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