アンチドーピング講習会
1 3月22日、23日に、「クライミング・日本ユース選手権2014」(於 千葉県印西市松山下公園総合体育館)が開催され、そこで合わせて催されたアンチドーピング講習会の講師を務めました。
受講者は、ユースやジュニアの選手、その保護者、指導者などでした。
2 そこでは、受講者の皆さんに以下の問題を考えてもらいました。
【事例1】
クライマーAが風邪をひきました。
そこで、昔からのかかりつけの医者の先生が「ドーピング違反とはならないから大丈夫だ」と言っていた風邪薬を飲みました。
その後試合に出て、ドーピング検査の対象となり陽性となりました。
Aはドーピング違反となるでしょうか?
【事例2】
クライマーBは、普段からドーピング違反にならないように気を付けていました。
ところが、試合でドーピング検査の対象となり、陽性となってしまいました。
これは、アイソレーションルームで、Bと熾烈なポイント争いをしていたクライマーXが、Bがトイレに行った隙に巧妙に飲み物に禁止物質を入れたからでした。
Bはドーピング違反になるでしょうか?
【事例3】
クライマーCはコンペで決勝の常連でしたが、その試合はたまたま調子が悪く、決勝に残れませんでした。
Cはとても気落ちして、そのまま帰ってしまいました。
なお、Cは、禁止物質を一切採っておらず、実際に禁止物質は身体に入っていませんでしたが、ドーピング検査の通知を受けていました。
Cはドーピング違反になるでしょうか?
【事例4】
クライマーDは、持病の治療のため、薬Mを飲む必要がありました。
ただ、薬Mは、禁止物質にあたり、代用となる薬がなく、Dは薬Mを飲まないと病状が悪化します。
Dは、仕方なく薬Mを飲んで、ドーピング検査対象にならないことを祈って試合に臨みましたが、運悪く検査対象となり、陽性となりました。
Dはドーピング違反となるでしょうか?
3 事例1~事例4のクライマーA,B,C,Dはとても可哀想ですが、全員がドーピング違反になるというのが正解でした。講習会を二回行い、全問正解した受講者は、一回目(20人程度)では3~4人、二回目(35人程度)では0人でした。
若干の解説を加えます。
事例1と事例2、事例4については、検体の検査結果が陽性だったという理由で、有無を言わせずドーピング違反となることを理解してもらうための事例問題でした。すなわち、検査結果が陽性になると、「意図的」であれば当然、「うっかり」(過失)でも、「これはあまりに可哀想だよね」という場合でも、ドーピング違反に該当するのであり、過失等がないということは反論の場で主張していくしかありません。
事例3については、身体に禁止物質が入っていなくても、検査の拒否という理由でドーピング違反となることを知ってもらうための事例問題でした。
また、事例4については、TUE(治療目的使用に係る除外措置)を申請すべき事例でした。
なお、違反に対する処分はその試合の成績の失効と資格停止2年間が原則であることは、半数以上の受講者が知っていました。
4 ちょっと意地悪な問題だったかもしれません。しかし、限界事例を考えてみることで、リスクと向き合い、リスクを管理しようと努め、「自分の身は自分で守らなければならない」ということを肝に銘じて欲しかったのです。
これはクライミングにおいても同様で、自身の安全は自分で管理しなければなりません。クライミングでは、一つのミスが命取りにもなりかねないからです。
クライミング、特に岩場でのクライミングでは、リスクは常に付きまといますし、またリスクをコントロールしてこその醍醐味があります。受講してくれたユースのクライマーには、ドーピングを含めた様々なリスクと上手く付き合いながら、更なる高みを目指してもらいたいと心から思います。