「被告」と「被告人」
1 法律相談をしていると、民事事件で訴えられて被告となった場合に、「今後、私は刑罰に処せられるのでしょうか」などと言われる方がいらっしゃいます。実際、このような誤解は少なくないと感じています。
では、何故このような誤解が生じるのでしょうか。
いくつか理由が考えられるでしょうが、最大の理由は、マスコミが被告と被告人を区別することなく、「被告」と呼び習わしていることにあると思います。
2 法律上、民事事件において、原告に訴えられた人や法人を「被告」、刑事事件において、検察に起訴された人を「被告人」といいます。
ところが、裁判所から「被告〜」(〜の部分には自分の名前が入ります)と記載された民事事件の訴状が届けば、自分も新聞やテレビなどで取り沙汰される「被告」であって、この先刑罰を科せられるのではないかと不安になっても無理はないと思います。
私が調べた限りでは、マスコミが何故このような表記をするのか、確たる根拠はないようです。国民に法律に対して誤解を生じさせ、混乱を招いている以上、これらの不都合の解消よりも重要な根拠がないのであれば、今すぐこれらのことは改めるべきと考えます。
なお、刑事事件における被疑者(捜査機関に嫌疑をかけられて起訴されるまで)を、マスコミではほぼ同義の用語として「容疑者」と言いますが、これも法律用語ではなく、法律に対する誤解を招く要因になると思います。
3 本来、民法や刑法といった国民生活に関わる身近な法律は、一読してある程度の理解ができるべきものであるはずです。
それにもかかわらず、それらの法律は、実際には普通の人が読んで非常に分かり辛い上に(民法については改正作業が進んでいるようです)、先に書いたようにマスコミが用語の本来の意味と異なる意味で用いたり、異なる用語を用いたりすることで、益々理解し難いものとなっています。
私たち法曹も、法律や法律用語をきちんと理解し易く説明していきたいと思いますし、同時に、現行の法律については、より分かり易く改正されるように、新しい法律については、平易な文で立法されるように、関係機関に対し働きかけていくよう努めたいとも思います。