未成年アスリートの後見的保護
1 軟式野球の全国高校選手権において延長50回で決着がついた試合があったということで、マスコミ各社が賑やかに報道したことは記憶に新しいところです。
また、同じころ、アメリカで未成年者の保護者の団体がFIFA等を相手取り脳震盪(のうしんとう)の原因となるヘディングを規制すべきだとして、提訴したと報じられました。
これらは、未成年アスリート(とりわけ18歳以下)の後見的保護という同じ問題を孕んでいます。
2 高校軟式野球の延長50回の熱戦をドラマ仕立てに取り上げる向きも多く見受けられますが、過酷な条件下で長時間にわたり選手たちを戦わせることをどう考えるべきでしょうか。
もちろん、最後まで戦い抜き、ドラマを生み出した選手たちには惜しみない賛辞が送られるべきです。
そしてこのような辛さを耐え抜く経験をすることは、彼らの大きな財産になるということもあり得ると思います。
しかし、このことが選手たちにどれ程のダメージを与えるかを考えてみてください。
炎天下、連続4日間トータル50回も野球をするのです。投手の肩をはじめとする身体に与えるダメージの大きさはもちろんのこと、野手にとっても、そのダメージの大きさは計り知れないでしょう。このダメージが野球選手としての将来を損なったり、奪ったりする可能性があるのではないでしょうか。
適正なルールの元でもドラマは生まれますし、得難い経験もできます。ドラマが生まれたから、あるいは得難い経験ができたから、ルールを変える必要が無いというのは、それは本末転倒と言えます。
私は、未成年の選手に対して悪影響を及ぼす可能性が少なからずあるのであれば、早期にルールを改正し、そのような悪影響を排除すべきだと考えます。
3 ヘディングの規制問題についても、同じように考えてみましょう。
サッカーでヘディングを規制するなんて馬鹿げている、と思うサッカー経験者や愛好者の方がいらっしゃるかもしれません。
ところが、未成年者がヘディングを行うことによって脳震盪となり、重い障害を負ったり、最悪の場合死亡したりする危険(二度目の脳震盪は特に危険であることが報告されています)があります。
大多数の未成年アスリートやその家族は、その様なリスクを負ってまでスポーツをしたいと願ってはいないでしょう。
楽しいはずのスポーツによって、未成年者の将来を奪ってしまったり、狂わせてしまったりすることは、あってはならないことではないでしょうか。
また、将来プロを目指すような未成年のトップアスリートにとって、ヘディングを規制されることは、大きなマイナスに感じるかもしれません。
そうはいっても、ヘディングにより死の危険すらあるのであれば、それは選手生命以前の問題ですし、プロを目指したからといって必ずプロになれる訳でもなく、プロにもなれずに障害を負うという最悪の事態は避けなければなりません。
このようなことから、本来のサッカーの姿から少し離れるとしても、やはりヘディングは規制せざるを得ないと考えます。
4 私は、危険であることを認識した上で、岩登り(フリークライミング)を愛好しています。
したがって、スポーツから全ての危険を排除せよ、といっているのではありません。
むしろ、危険を引き受けて、危険をコントロールしてこそ、スポーツの醍醐味があると思っています。
また困ったことに、私にはより危険な方を好むという傾向すらあります。
しかし、こと未成年者については、そのように危険を引き受けるには判断能力の点で未熟であることが多いと思われます。
あるスポーツが危険性を有していると判明したら、大人たち、すなわちスポーツを管轄する国、地方公共団体、当該スポーツの国内統括団体や保護者が、協力して、未成年者を後見的に保護していくべきです。
今後、我が国においてスポーツが発展していくためには、未成年アスリートの後見的保護という視点がより一層重視されていくべきであると思います。