弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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防げる岩場での事故

1 私が岩場解禁でお手伝いさせていただいた湯河原幕岩において、昨年12月に不幸にも死亡事故が起きました。

この事故は、現場の状況からすると、以下のように起きたと考えられます。

亡くなったクライマーは、約20メートルのルートの終了点まで登りました。その後、終了点の支点リングへのロープの結び替えの際に、何らかの手違いが生じ、ハーネスにロープがきちんと結ばれていないにもかかわらず、クライマーが下降しようとロープに体重をかけたところ、ロープに確保されることなく、そのまま落下した、というものです。

2 本件は、ロープの結び替えの際に手違いが生じている可能性が極めて高いので、結び替えをしなければ、生じなかった事故といえます。

ロープの結び替えは、ロープを一旦解き、結び直す(逆の順序もあります)以上、結び忘れや結ぶ際のミスというリスクが必然的に伴います。しかし、ロープの結び替えが不要な終了点にすれば、この結び替えのリスクは避けられるものです。

3 では、なぜ、結び替えのリスクが避けられるにもかかわらず、結び替えが必要な終了点があるのでしょうか。

十数年前に私が盛んにフリークライミングをしていた頃は、どこの岩場でも、大多数の終了点には、下降用に、安全環付きカラビナや複数のカラビナ、あるいは終了点に固定されたカラビナ(以下、「残置カラビナ」)が残置され、終了点に着いても結び替える必要がありませんでした。

ところが、残置カラビナが頻繁に持ち去られ、その後、残置カラビナがないままになっているか、あるいは、持ち去りを危惧して、初めから残置カラビナを設置しない終了点が増えてきています。
すなわち、残置カラビナが持ち去られることによって、終了点に残置カラビナがなく、やむなく結び替えをしなければならない状況になっているのです。

4 残置カラビナの「持ち去り」は犯罪です。窃盗罪あるいは占有離脱物横領罪になります。しかも、この持ち去りにより、死亡事故が生じている以上、他者の生命を危うくしており、極めて悪質だといえます。

残置カラビナの持ち去りは、2人以上のパーティーの最後に登る者が、先に述べた結び替えのリスクを負いながらロープを結び替えてなされていると考えられます。パーティーの最後に登り、結び替えをする者は、ある程度の経験と技術を有していないと出来ないはずで、このような者は残置カラビナがいわば他の全てのクライマーのために残置されていることを知っているはずなのです。
そうだとすれば、間違えて回収したなどという言い訳は通用しませんし、持ち去りの悪質性はこの点においても否めません。

5 フリークライミング界では、チッピング(岩を削ったり加工したりして、ルートの質を変えてしまうこと)の問題が話題になっています。チッピングは断じて許されるものではありません。
しかし、チッピングがクライミングの倫理の問題であるのに対し、残置カラビナの持ち去りは犯罪であり明らかに違法です。残置カラビナを持ち去ってはならないことは、あまりに当然の事であるがためにさして話題にならないのでしょうが、事の重大性から再確認しなければなりません。

財布を落としても、かなりの確率で戻ってくるこの安全な国で、このようなことを言わなければならないのは残念で仕方がありませんが、改めて声を大にして啓発していく必要があります。
そして避けられる事故は、可及的に避けなければならないのであり、結び替えによる事故は、残置カラビナを持ち去らないという至極当たり前のことを守りさえすれば避けることが出来るのです。

最後に、幸いにも終了点に残置カラビナがあった場合には、残置カラビナの状態が下降に耐えうるものかの確認は、クライマーの責任として必ずなされるべきです。

 

 

 

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