弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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団体の不祥事調査について

1 平成27年12月、広島県の中学3年生が、過去に万引きをしていないにもかかわらず、万引きをしたとする誤った記録に基づいて進路指導を受け、これを苦に自殺したとの報道がありました。
この件では、「誤った記録に基づいて」という点に批判が集まりましたが、生徒は担当教員に対し万引きを認めた後に自殺をしたとされ、生徒がやってもいない万引きを認めたとの学校の調査や事実の認定についても疑義が呈されています。
調査という観点からすれば、前者の万引きという非行事実を誤って記録したことについて、学校側が事実関係を認めているため、調査自体はさして困難を伴いませんが、後者のような、担任教員という言わば学校側の者の言動が問題となった場合に、学校が担任教員の調査を行い、真実を突き止めることは容易ではないといえます。

2 ある団体に属する人の不祥事が疑われ、その所属団体が調査する場合、身内を庇い、調査に手心を加えたり、不祥事となる事実を確認しても批判を恐れて隠ぺいしたりすることが少なくありません。
これらのことを防ぐには、団体と利害関係のない中立性・独立性を有する第三者が調査を行えばよいということになります。
上記の広島の事件では、その後、町教育委員会が第三者委員会を設置し調査を行うと報道されています。

3 では、第三者である機関が調査すると真相が解明されるのでしょうか。
読売ジャイアンツの複数の選手が野球賭博をしていた問題では、NPB(日本野球機構)の調査委員会が調査を行いました。
ジャイアンツはNPBを構成する団体(NPB定款上は「会員」とされる)で、全く無関係の団体であるとみることは難しいものの、別法人ではあるため、ジャイアンツが自ら調査するよりは、第三者性は満たされているといえるでしょう。しかし、NPB調査委員会は、警察の強制捜査のような強制力を伴う調査をすることができず、真相解明に苦慮しているようです。
このように、第三者性が満たされれば、調査の中立性や公正さがある程度保たれ、身内の擁護や事実の隠蔽を防止することはできても、必ずしも真相の解明ができるとは限りません。

4 第三者性を満たす調査委員会に強制力を伴う調査権限を与えれば、問題は解決するのかといえば、そうではありません。
というのも、強制力を伴う調査においては、人身の自由、財産権、プライバシー権、名誉権などの人権を侵害するおそれがあるからです。
そうすると、ここで行き止まりになってしまいます。
では、どのような調査をすればよいのでしょうか。

5 私は団体内部の問題については団体内で処理すべきであり、調査についても団体自ら行うことを原則とすべきと考えます。
団体は団体自らが定めたルールに基づいて運営され、また団体内部の問題についても団体自ら対応・処理するという、いわば団体の自治を原則とし、このことは憲法上保障される結社の自由(21条)に由来します。
また、団体内の事柄は団体が最も把握しているはずで、迅速な調査が期待できます。
ただし、上記の広島の事件やNPBの調査の件で述べたことを踏まえて、(1)調査の中立性・独立性の確保、(2)団体内部にとどまらない案件の調査、(3)真相の解明という点で別途の考慮と手当てが必要となります。
(1) 調査の中立性・独立性の確保
団体自らが調査を行う場合には中立性・独立性が問題になりますが、調査委員には事件と利害関係がない者あるいは全く外部の者を任命することである程度の中立性・独立性は確保されます。そして、不祥事が疑われる事態が生じた後に事後的に対応するのでなく、予め不祥事に関する調査・処分に関するルール作りをしておくことが肝要です。

(2) 団体内部にとどまらない案件の調査
人の命にかかわるような重大案件や、案件の内容・影響が団体内部にとどまらないと判断される案件については、外部の調査機関に依頼することもやむを得ないといえます。

(3) 真相の解明
強制力を伴う調査ができないため真相解明が困難である案件については、先に述べたように人権保障が優先されるため強制力を認めることはできませんが、不祥事に関する自己申告者に対しては団体が処分を軽減すること、情報提供者が団体内で不利な処遇を受けないようにすることも検討されるべきでしょう。
前者の自己申告について、ジャイアンツの野球賭博問題では、NPB調査委員会は、実際に自己申告者に処分軽減を打ち出しましたが、これに応じて自己申告した選手はいなかったことが報じられました。強制力がない以上、自己申告者がないことはある意味仕方のないことですが、真相の解明には自己申告制度を取り入れた方がよいことは確かです。
今後は、人権侵害のおそれを伴わない真相解明の方法について、知恵を出し合っていく必要があります。

6 最後に、広島の事件の報道と同時期に、文部科学省が、学校での授業や登下校時に起きた事故などで子供が亡くなったときの対応について指針案を公表したとの報道がありました(平成28年3月3日、23日朝日新聞)。
水泳授業中の事故や、地震、津波など自然災害、給食アレルギーなどで、幼稚園児、小中学生、高校生らが死亡した場合、学校は3日間をめどに、関係する教職員から聞き取り調査をする。調査結果は遺族等に1週間をめどに報告する。遺族の要望があるか、再発防止の必要があると判断すれば、市町村教育委員会といった学校の設置者が、弁護士や学識経験者で構成する第三者委員会を立ち上げ、原因を調べて報告書をまとめるとされています。
このような重大案件の調査について指針すらなかったことが問題といえるものの、指針が作成されたことは評価すべきものと考えます。とりわけ調査やその報告の迅速性は、特筆されるべきものでしょう。

 

 

 

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