弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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「天然記念物の岩にくさび」報道について

1 岐阜県御嵩町鬼岩、石川県白峰百万貫、長野県飯田市天龍峡において、天然記念物の岩や名勝地内の岩にクライミング用のくさびが発見されたと新聞やウェブで報道がなされ、その後TV番組などでも取り上げられています。
なお、このくさびは、当初、ハーケン(主として登るための手がかりとする金具)として報道されましたが、正しくはハンガーボルト・リングボルト(主としてフリークライミングにおいて使用される墜落時の支点となる金具。以下「ボルト」)です。

2 この問題をどのように考えるべきでしょうか。
確かに、天然記念物等の岩に穴を開け、金具を設置すれば、それはやはり好ましくない行為だと評価されても仕方ないのかもしれません。
他方で、岐阜の件のように、最初にボルトが打たれてから、すでに数十年も経過しているものもあり、それはいわば管理者(文化財保護法(以下、単に「法」)119条1項によれば原則として所有者)が「大目に見てくれていた(黙認していた)」といえるかもしれません。
仮に、ボルトの設置が、天然記念物に指定された岩の「現状を変更し、又は保存に影響を及ぼす行為をして、……き損」(法196条1項)に該当するとすれば、このき損行為を数十年にわたり放置していた管理者の管理責任(法119条1項等)を問われる可能性も出てきます。それにもかかわらず、管理者が、これまで長期間ボルトを放置していたことを考えると、ボルトの設置を、好ましいとまではいえないが、き損ともみなしていなかったと思われます。

3 それでは、なぜこの問題が表面化したのでしょうか。
例えば、天然記念物に落書きをする者は、落書きにより自己表現をしているといえます。これに対して、ボルトを設置したクライマーは、ボルトの設置を自己表現の一手段としていないとは言い切れませんが、クライマーがその岩を登る際の墜落時に備えた支点とすることを主たる目的にしていたといえます。
そのようなボルトが設置されている以上、クライマーがその岩を登っていたはずで、大きさ数センチの数個のボルトよりもクライマーが登っている姿の方がよほど目立ち、目認しやすいはずですから、天然記念物等の岩を登ることが違法かという問題は別として、管理者や地元の人達がボルトの設置のみならずクライミングをも黙認していたことになります。
しかし、ここにきて管理者や地元の人達が声を上げ始めたというのは、それまでクライマーとの関係が悪くなかったものが、クライマー側のコミュニケーション不足などで関係が悪化し、従来は黙認されてきたボルトの設置やクライミングが、見過ごすことができないと判断され、問題が表面化したものだと推察します。
そして、岐阜の件の報道を発端として、ドミノ倒しのように全国の天然記念物等に指定された岩の管理者や地元の人達が声を上げ始めたものと考えられます。

4 ここでクライマーならお気付きかもしれませんが、この問題の本質はアクセス問題にあるといえます。
アクセス問題とは、クライマーが岩にアクセスする際に起こる岩場の使用禁止などの問題を指します。
先に述べた、管理者や地元の人達との関係の悪化こそが、今回の問題の表面化の根本にあり、地元の人達と良好な関係が持続できていれば、今回の問題は起こらなかったのではないでしょうか。
ただ現状において、今回報道された件以外にも、全国の天然記念物等の指定の岩にボルトが設置されている可能性が高く、今後もこのドミノ倒しは続く可能性があります。
これらに対しては、従前から私もアクセス問題について提案させていただいたように、あまり法律や条例を振り回すのではなく、その土地ごとにクライマーが管理者や地元の人達と良好な関係を構築する努力をし、ボルトの設置やクライミングの可否について話し合いを重ねていくべきだと考えます。
そしてそのような話し合いの中で、天然記念物等の指定の有無にかかわらず、岩場という自然が与えてくれた環境と、どのように人が関わっていくべきであるのかを模索していくことが必要であると思います。

クライマーが守るべきは、ボルトではなく、自由に岩を登るという行為そのものなのですから。

 

 

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