スポーツクライミングの隆盛と今後の課題
1 先日放映されたTV番組で、スポーツクライミングに対して張本勲さんの「アッパレ」が出ました。これまで、この番組でスポーツクライミングが何度か取り上げられましたが、いずれもキワモノ的扱いだったので、まともに取り上げられたことに少々驚いてしまいました。
2020年東京五輪での追加競技への採用を契機に、がらりと報道の姿勢が変わり、毎日のようにスポーツクライミングが取り上げられ、クライマーが報道やメディアに登場することは、珍しいことではなくなりました。ほんの2年ほど前に本欄で、「世界の大舞台で日本人クライマーが大活躍しているにもかかわらず、報道では殆ど無視されている」とぼやいたことが、遥か遠い昔のようです( 「世界で活躍する日本人クライマーと報道」 )。
2 張本さんの「アッパレ」の対象は、9月14~18日にパリで行われたスポーツクライミングの世界選手権の男子ボルダリングで楢崎智亜選手(20歳)が優勝し、金メダルを獲得したことや、女子ボルダリングでも、野中生萌選手(19歳)が2位、野口啓代選手(27歳)も3位と健闘したことでした。
世界選手権で日本人が優勝するのは初めてで、過去に優勝できる実力をもつ選手は何人もいたものの優勝を逃し続けていたため、「日本人は世界選手権で勝てない」というジンクスがあるとさえ言われていた中での快挙でした。
日本人クライマーの実力を世界に知らしめたといえるでしょう。
3 このように、スポーツクライミングを巡る環境は激変し、スポーツクライミングが発展する方向に進んでおり、喜ばしいかぎりです。
ただ、今後の課題が全くないかと言われれば、そうではありません。以下、考えられる点を列挙していきます。
(1) 若手クライマーへの啓発について
未成年のスノーボーダーが大麻を使用していた事件やバドミントンのロンドン五輪代表選手2名(26歳、21歳)の違法賭博事件など、若者のアスリートの事件や不祥事が絶えません。
若手クライマーの啓発を早急に行う必要があるでしょう。
(2) アンチドーピングについて
リオ五輪をめぐりロシアのドーピング問題が盛んに報道されましたが、アンチドーピングは世界的関心事となっています。
一度陽性反応が出て処分されてしまうとアスリートの選手生命に関わると共に、スポーツクライミングという競技に対するイメージを大きく損なうことになります。念には念を入れて、アンチドーピングに取り組まなければなりません。
(3) 東京五輪のスポーツクライミングのルールについて
2020年東京五輪における、スポーツクライミングのルールは、リード、ボルダリング、スピードの三種目の総合で順位を決めるとされていますが、その順位の決め方のルールについては未だ決まっていません。本来的なクライミングという観点からは、スピード競技の比重を他のリード競技、ボルダリング競技よりも軽くすべきとの見解もありますが、その見解が採用されるかも分かりません。
いずれにしても、早急にルールを決めて、4年後に備えて、選手が万全の準備ができるようにしなければなりません。
(4) 国内統括団体(NF)について
前回本欄 ( 「フリークライミング、スポーツクライミングの国内統括団体について 」 ) でも取り上げたので詳しくは書きませんが、スポーツクライミングのNFとフリークライミングのNFが分断されているという問題です。
岩場でのクライミング(主としてフリークライミング)と人工壁でのクライミング(主としてスポーツクライミング)を分断することなく、両者が相互に高め合うように、NFも協力・統合していく必要があると考えます。
(5) スポーツ障害について
昨今、スポーツクライミングは若年層が主役となりつつあります。そして、これら若年層のクライマーは日々ハードなトレーニングを積んでいます。クライマーのハードなトレーニングによるスポーツ障害はいまだデータがありませんが、何か対策も講じなければ、スポーツ障害が増加することは間違いのないところだといえます。
スポーツクライミングは、若年層から高齢者まで広く楽しめる生涯スポーツです。生涯にわたってスポーツクライミングを楽しめるように、スポーツ障害の予防、特に若年層のクライマーのスポーツ障害の予防に力を入れなければならないと思います。
4 今後の課題は、上に挙げた課題にとどまりませんが、関係者で協力すれば解決可能なものばかりです。これらの課題をクリアして晴れやかな気持ちで2020年を迎えたいものです。