指導者による暴力等の不適切な行為をなくすために① 〜相談件数の増加について〜
1 本欄では、指導者による暴力、暴言、パワハラ、セクハラ等の不適切な行為(以下「暴力等不適切行為」)をなくすための方策等について、何回かに分けて考えていきたいと思います。
私は、(公財)日本体育協会(2018年4月1日からは「日本スポーツ協会」に改称されます。)における「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」の運営に関わっていますが、そこに寄せられる暴力等不適切行為の相談件数は微増しています。
2 2012年に起きた大阪市立桜宮高校の男子バスケットボール部のキャプテンが指導者の暴力等不適切行為により自殺した事件、および同年に女子柔道日本代表選手が代表監督の暴力等を告発した事件を契機に、スポーツ界から暴力等不適切行為を根絶することが叫ばれ、各スポーツ団体に暴力相談窓口が設置されたり、指導者研修会における啓発活動がなされたりしました。
それにもかかわらず、相談件数が増えており、この理由等について以下で考えます。
3 なお、このように相談件数が増加しているからといって、暴力等不適切行為の発生件数までもが増加していると捉えることは早計だと思われます。
その理由は、私自身が指導者研修等で講師を担当した際に受講者の反応をみる限り、指導者側での意識が相当程度高まっていること、発生件数の把握は下記に述べるように容易ではなく、必ずしも相談件数が増えたからといって、発生件数が増えたとまでは言えないことにあります。
4 私は、相談件数の増加理由として、発生件数が増えたからというよりは、これまでなら泣き寝入りしていたであろう被害者が告発し始めたことによるものと考えます。
ちなみに、被害者が告発せずに泣き寝入りしていた原因として、以下が考えられます。
一つは、告発することで、加害者が告発者や被害者に対してより暴力等不適切行為を強めることを恐れて、被害者が告発することを躊躇うこと、もう一つは、仮に然るべき責任者、スポーツ団体、学校(以下「被告発者」)などに告発したとしても、加害者が被告発者に近いことも多く、被告発者は加害者から事情を聞いて、調査を終えてしまうことも少なくないことです。
5 このような、被害者が告発するためのハードルを越えて、声を上げ始めたのは、あるべき姿に近づきつつあるといえます。
しかし、様々なスポーツ団体において、相談窓口が設置され、また設置されつつあるものの、相談者から信頼される窓口がどれほどあるかといえば、まだそれほど多くないと思います。
相談者や被害者の秘密が守られ、二次被害を可及的に防止する体制、及び「相談→調査→事実認定→処分」という手続きが適正に行われる体制が整っていなければなりません。具体的な体制の構築やその問題点については回を改めて言及します。
そして、このような事後的な救済のみならず、事前に防止することも検討しなければなりません。研修会開催等による啓発を励行し、発生件数の総数を減らすことで、相談件数も減少するよう努めなければならないと考えています。上述したように、私は指導者資格を有する指導者向けの研修会の講師を務めさせていただくことも少なくないのですが、研修会に参加される殆どの指導者の意識は高いといえます。問題は、研修会に参加しようとしない有資格者、或いは参加する必要のない無資格者をどのように啓発していくかですが、資格の有無にかかわらず参加できる研修会開催を企画し、多様な人たちに周知し、参加を促すべきものと考えます。
次回以降もこの問題について考えていきます。