弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

事務所案内

内観

合田綜合法律事務所
〒104-0028
東京都中央区八重洲2-11-2
城辺橋ビル4階

TEL : 03-3527-9415
FAX : 03-3527-9416

10:30~18:30(月曜~金曜、祝日は除く)

指導者による暴力等の不適切な行為をなくすために②〜暴力等不適切行為とその行為者類型〜

 前回は、暴力等不適切行為の発生件数や相談件数について述べました。今回は続いて、暴力等不適切行為とは何であるか、暴力等不適切行為に及ぶ行為者の類型について述べます

 

2 暴力等の不適切な行為とは

暴力等不適切行為には、暴力、暴言、ハラスメント、その他の不適切行為がありますが、それぞれについて見ていきます。

(1) 暴力

暴力は刑法上の「暴行」に該当します。そして「暴行」とは、不法な有形力の行使を指し、殴る、蹴る、叩くなどが典型例で、その他にも、髪の毛を切る、部屋の中で日本刀を振り回す、あるいは石を相手に向かって投げつける(石が当たらない場合も含む)などの行為が「暴行」に該当するとされています。このような行為を行えば、暴行罪の成立の要件(構成要件)に該当するため、極めて例外的な事情(正当防衛など)がない限りは、刑法犯として処罰の対象となります。そして暴行の結果、怪我をさせた場合には傷害罪に該当することになります。

因みに、暴行罪の法定刑は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金等であるのに対し、傷害罪の法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金となり、ぐっと刑罰が重くなることがわかります。

(2) 暴言

暴言は、原則として刑法犯ではありませんが、言葉による暴力として相手の心を傷つけるものですから、当然に許されません。

暴言の内容については、人格を否定する「お前は本当にバカだな」「人間のクズだ」「きもい」、身体的特徴をけなす「ちび」「デブ」、相手を威嚇する「殺すぞ」「ぶっとばすぞ」「しばくぞ」、自尊感情を傷つける「お前みたいなやつはダメだ」、その他差別的内容の発言などがあります。

(3) ハラスメント

ハラスメントとは、他者に対する発言・行動等が、行為者の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えたりすることを指します。

ハラスメントには多くの種類がありますが、スポーツの現場では、セクシャル・ハラスメント(セクハラ)、パワー・ハラスメント(パワハラ)が主として問題となります。

セクハラとは、相手が不快に思い、又は相手が自身の尊厳を傷つけられたと感じるような性的発言や性的行動を指します。

パワハラとは、地位や人間関係などの優位性を背景に、上下関係の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は周囲の環境を悪化させる行為を指します。

ハラスメントは、「行為者の意図とは関係なく」という点がポイントとなります。行為者が良かれと思って行った言動でも、相手方が嫌だと思えばハランスメントとなります。

(4) その他の不適切な行為

その他の不適切な行為として、他者がいるところで過度の叱責を行うこと、長時間にわたって留め置くこと、能力を超えた練習をさせることなどがあります。

なお、これらの不適切な行為については、指導者と被指導者という関係性からは、パワハラに該当するともいえるでしょう。このことからも分かるように、パワハラに該当する言動の範囲は相当広く、その境界線は曖昧であるといえます。

また、懲戒権については次回に詳しく触れますが、懲戒権の範囲内であるとされる、「腕をつかんで連れ歩く」「頭(顔・肩)を押さえる」「体をつかんで軽く揺する」「短時間正座をさせて説諭する」(東京都「体罰の定義・体罰関連行為のガイドライン」より)などの行為も、懲戒権を有しない指導者の場合、不適切な行為とされる可能性があります。

 

3 暴力等不適切行為に及ぶ行為者類型

(1) 暴力等不適切行為に及ぶ行為者のタイプは4つに分類できるとされ、その4類型とは、①確信犯型、②指導方法不明型、③感情爆発型、④不適切行為嗜好型です(「スポーツにおける真の勝利」エーデル研究所・24頁参照)。

(2) 暴力等不適切行為に及ぶ行為者の4類型

① 確信犯型

暴力等不適切行為を行うことが悪いことではなく、むしろ良いことだと信じているタイプです。なお、「確信犯」は、よく誤解されて、悪いことだと確信しながら犯罪に及ぶ犯罪者を指すと思われていますが、正しくは、良いことだと確信して犯罪に及んでしまう犯罪者のことをいいます。指導の現場では、いまだにこのタイプが少なからず存在します。

② 指導方法不明型

本来、暴力等不適切行為を行わなくても、適切な指導のもと、結果を出すこともできますが、そのような指導方法が分からないため、場合によっては即効性のある暴力等不適切行為に及んでしまうタイプのことをいいます。このタイプの指導者も、現場では少なくないでしょう。

③ 感情爆発型

よく「怒る」と「叱る」とは異なると言われますが、感情爆発型は前者の「怒る」タイプで、自らの感情をコントロールできないタイプを指します。

④ 不適切行為嗜好型

稀にではありますが、不適切行為を嗜好するタイプも存在します。特に、小さな子どもに対し、わいせつな行為をしたり、暴力等により虐待したりすることを嗜好する者がいます。

⑤ 混合型

上記①~④が複数混合したタイプも多いと思われます。

(3) 類型別の対策

①②に対しては、正しい知識を得させた上で、指導の本質を理解させる必要があります。

③に対しては、研修やセラピーにより、感情を制御できるよう、アンガーマネジメントを習得させる必要があるでしょう。

④に対しては、嗜好を改めさせる困難性から考えると、子供を守るという観点(チャイルドプロテクション)から、そのような者を指導者とさせない、という対応もあり得ます。

⑤に対しては、先に述べた対策をミックスして対応することになります。

 

次回以降も、指導者による暴力等不適切行為を根絶するための方策を探っていきます。

 

 

 

記事一覧