弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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スポーツ事故の被害者の方々へ ~バドミントン事故判決を踏まえて~

1  はじめに

私が訴訟代理人として一審及び控訴審を担当しましたバドミントン中のプレーヤー同士の事故について、10月29日付け讀賣新聞朝刊にコメントを掲載していただきました。この讀賣新聞の記事を契機として、さらに本件が各社により報道され、大きな話題となっています。

 

そして近時、本件以外の、私が訴訟代理人を担当しましたプレーヤー同士のスポーツ事故案件においても、被害者の損害賠償請求を認める東京高等裁判所の判決を得られました( 東京高判H30.7.19(H30(ネ)1024)、確定)。

 

私の考え方に対し裁判所によるお墨付きをいただいたことはとても喜ばしく思う一方で、報道における私のコメントも紙幅の関係からかなり言葉足らずとなっておりますので、ここで改めて説明を加えさせていただくと共に、スポーツ事故の被害者の方々へ向けてメッセージを送らせていただきたいと思います。

 

2 プレーヤー同士の事故

これまでスポーツ中のプレーヤー同士の事故においては、スポーツ中の事故を特別視し、スポーツ中の事故というだけで、被害者の損害賠償請求が認められないことが多かったといえます。このことが原因で、被害者が泣き寝入りをせざるをえなかった事案は相当数にのぼると考えられます。

これに対して私は、従前から、スポーツ中のプレーヤー同士の事故について、加害者に注意義務違反があれば、違法性を阻却する(違法性を無くする)ことなく、被害者の損害賠償請求が認められるべきあること主張させていただき、本欄でも述べさせていただいておりました( https://gohda-law.com/blog/?p=523 )。

私の依頼者も、何人もの弁護士に相談しても損害賠償請求は難しいと言われ、半ば諦めかけたところで、私の事務所に辿り着いた方が少なからずいらっしゃいます。

 

3 プレーヤー同士の事故における違法性阻却説

弁護士が損害賠償請求について難しいと回答する理由としては、プレーヤー同士の事故においては「著しくルールに反しない限り違法性が阻却される」(違法性阻却説)と考える法曹が少なからずおられることにあると思います( https://gohda-law.com/blog/?p=523 ママさんバレーボール事故判決 参照)。

しかし、スポーツ中の事故であっても、加害者であるプレーヤーに注意義務違反があれば、損害賠償責任を負うという、いわば当たり前の考え方が漸く裁判でも認められ始めたのです。

 

4 批判に対して 

この考え方に対し、よく聞かれる批判は、このような請求が認められるのであれば、思い切ってプレーをすることができずプレーを萎縮させる、ひいては加害者も含めたプレーヤーのスポーツをする権利やスポーツに親しむ権利を侵害する、というものです。

本当にそうでしょうか。

先ず、スポーツをする権利やスポーツに親しむ権利を主張する前に、他者を傷つけてはならない、あるいは傷つけないように注意しなければならない、ということは当然のことではないでしょうか。

そのような注意義務を前提とすれば、人を傷つければ、原則として違法となるのであり、よほどの特別な事情がない限り、違法性が阻却されることはないと考えるべきです。

次に、加害者や一般的なプレーヤーにおける思い切ってプレーできずプレーを萎縮させるという意味でのスポーツ権の侵害と、被害者における事故による全損害の負担や傷害によって被害者はプレーそのものができなくなるという意味でのスポーツ権の侵害を比べてみれば、後者の侵害が遥かに深刻で、後者のスポーツ権を優先的に保護すべきであることは明らかであると思います。

 

5 加害者のスポーツ権と被害者のスポーツ権

スポーツ権の保障について、本件の一審(東京地判H30.2.9、判例秘書L07330064、Westlaw 2018WLJPCA02096006)は、
「ルールに著しく反しない行為である以上、どのような態様によるものであってもそれによって生じた危険を競技者が全て引き受けているとはいえないことは明らかである。……ルールに著しく違反しない限り、違法性が阻却されると解することは相当ではない」
とし、
「一定の危険を伴うスポーツの競技中に事故が発生した場合に常に過失責任が問われることになれば、国民のスポーツに親しむ権利を萎縮させ、スポーツ基本法の理念にもとる結果になるから、本件については違法性が阻却されるべきである」
との加害者側の主張に対し、
「結果回避可能性が認められる場合についてまで、スポーツ競技中の事故であるからといって過失責任を否定することは、スポーツの危険性を高めることにつながりかねず、国民が安心してスポーツに親しむことを阻害する可能性がある」
としています。

 

6 判決の評価と報道について

私ごときが判決を評価するなどおこがましい限りですが、一審の判決書の上記箇所を読んだ時の感動は忘れられないものがあります。長らく我々原告側が訴えてきた主張を正面から認めてくれたからです。その意味で、一審判決は画期的な判決であり、控訴審判決に劣らない先例的価値があると思います。

そして繰り返し私が主張してきました、スポーツ中のプレーヤー同士の事故においては、原則として違法性は阻却しないとした上で、損害の公平な分担の見地から、過失割合の判断の中で様々な事情を考慮して加害者の責任について判断すべきであるという考え方が採用されたものと考えています。

控訴審においては、このような考え方を前提として、過失割合を検討したところ、被害者には過失がなく、過失相殺をすることは相当ではないとしたため、認容額は増え、より被害者救済に資する判決となっています。

ただ、報道においては、控訴審が過失相殺をしなかったことだけが大きくクローズアップされる傾向があり、このままでは過失割合の話に終始し、上記画期的判断の意義について、見失われかねないことを懸念しています。

 

7 控訴審判決書(東京高判H30.9.12(H30(ネ)1183))について

控訴審判決(東京高判H30.9.12(H30(ネ)1183))については、裁判所ホームページの裁判例情報( http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/216/088216_hanrei.pdf )及び各種判例検索サイトに掲載されておりますので、ご参照ください。

なお、上記のように、控訴審判決は基本的には一審判決を踏襲した上で、過失相殺について

「損害の公平な分担の見地から、本件事故により生じた被控訴人(被害者)の損害の一部を同人に負担させるべき事情が同人側に存在すると認めるに足りる証拠も見当たらないから、過失相殺ないし過失相殺類似の法理により本件事故により生じた被控訴人の損害の一部を同人に負担させる理由はないというべき」

としています。

 

8 保険・補償制度について

先にスポーツにおけるプレーの萎縮について触れましたが、プレーの萎縮を避けて一般プレーヤーのスポーツ権を確保しつつ、被害者の救済及びそのスポーツ権を保障することをも考えるならば、保険制度や補償制度の整備について真剣に検討すべき時が来ているのではないでしょうか。
国も、スポーツ基本法において、スポーツ立国を標榜するのであれば、スポーツにおける保険制度や補償制度について、国を挙げて早急に検討・対応すべきだと強く思います。

 

9 最後に

プレーヤー同士の事故に限らず、スポーツ事故において傷害を負わされた被害者の方々へ向けて、以下の言葉を贈りたいと思います。

「決して諦めないで下さい。容易い道ではありませんが、裁判所の門戸は開いています。」

 

 

 

 

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