弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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スポーツ中のプレイヤー同士の事故に関する注目すべき判例について

1 はじめに

スポーツ中のプレイヤー同士の事故についての注目すべき判例として、バドミントン事故判決( http://gohda-law.com/blog/?p=632 参照)を紹介させていただきましたが、これとは別の事件に関する、注目すべき判例を紹介します。なお、本件は、2審から私が控訴人(原審原告)代理人を担当させていただき、2審で確定しています。

 

2 事案の概要

自治会の運動会で自転車リングリレー競技(自転車のリングホイールを金属製のスティックを使って転がし早さを競い合う競技、以下「本件競技」)の最中、女性が、男性に衝突されて転倒し、頭部を地面に打ち付け、救急車で搬送され、その後、脊椎捻挫、全身打撲、末梢神経障害との診断を受けました(後遺障害はありませんでした)。そこで、女性は男性に対し、209万円余の損害賠償を求めて提訴しました。

 

3 リングリレー1審判決(さいたま地方裁判所判決平成30年1月26日(平成28年(ワ)第909号)LLI/DB等)

1審判決は、原告の請求を棄却しました。その理由において、「本件競技はスポーツの一類型というべきであり、本件事故は、その過程で生じたものであるところ、スポーツの参加者は、一般に、そのスポーツに伴う危険について承知しており、その危険の引受けをしていると解されるから、当該スポーツ中の加害行為については、加害者の故意・重過失によって行われたり、危険防止のためのルールに重大な違反をして行われたりしたような特段の事情のある場合を除いて、違法性が阻却される」との規範を定立し、原告が「本件競技の性質やルールを熟知していた」ことをもって「本件競技に伴う危険について承知しており、その危険を引き受けしていたというべきである」とし、特段の事情を認めることもできないとして、被告に法的責任があるとはいえないとしました。

さらに、判決は「結局、本件競技は、競技者がスティックからリングが離れないように注意しながらできるだけまっすぐ進もうとするが、なかなかうまくいかないという点に醍醐味のあるものであるところ、本件事故は、原告と被告の双方とも、衝突するまで相手に気づかず、互いに前方不注視だったために発生した不幸な事故であり、本件競技に内在する危険が発現したもの」としています。

 

4 1審判決の評価

(1) 1審判決の規範について

1審判決は、スポーツ中のプレイヤー同士の事故について、危険の引受けを理由に原則として違法性を阻却するとしつつ、例外的に、①加害者に故意・重過失あった場合、②危険防止のためのルールに重大な違反をして行われたなどの特段の事情がある場合には、違法性を阻却しないという規範を定立しています。

しかし、このような規範を定立した根拠が明らかではありません。たとえば、特段の事情において、①に過失を含めなかった根拠や②で危険防止のためのルールに反していた場合について「重大な」ものに限定する根拠が不明です。

また、スポーツの各競技の個別具体的な特性や状況を比較検討することなく、一律に、スポーツのあらゆる危険を引き受けているとするのは無理があると思います。

さらに、この規範によれは、危険防止のためのルールの軽微な違反が認められ、なおかつ過失によって、相手方を死亡させたとしても、違法性を阻却することになり、これは結果の妥当性を著しく欠くことになるのではないでしょうか。

(2) 危険の引受の根拠について

1審判決が、原告において「本件競技の性質やルールを熟知していた」ことをもって、「本件競技に伴う危険について承知しており、その危険を引き受けしていたというべきである」とするのにも、論理の飛躍があると思われます。判決では、これまで本件競技において傷害を負う事故が多発していたといった事情が認定されていない以上、「本件競技の性質やルールを熟知していた」ことはむしろ本件競技が安全であるとの認識があったとして、危険を引き受けていなかったとするのが自然なのではないでしょうか。

(3) 「競技の醍醐味」「不幸な事故」について

さらには1審判決が「結局、本件競技は、競技者がスティックからリングが離れないように注意しながらできるだけまっすぐ進もうとするが、なかなかうまくいかないという点に醍醐味のある」とした点、「本件事故は、原告と被告の双方とも、衝突するまで相手に気づかず、互いに前方不注視だったために発生した不幸な事故」とした点について、論理的な判断内容とは到底いえないと思われます。なお、控訴人(原審原告)はこの部分をもって控訴を決断したといっても過言ではありません。

 

 

5 リングリレー 2審判決(東京高等裁判所判決平成30年7月19日(平成30年(ネ)第1024号))

2審判決では、控訴人(原審原告)の請求の一部(10万円)を認容しました。

「スポーツ競技中であるからといって、自らの位置方向と付近の状況を可能な限り随時確認して、他の競技者との衝突を回避するように注意すべき一般的な注意義務が存在することを否定することはできない。」「本件競技がスポーツの一類型であることからすると、そのルールないしマナーに照らし社会的に許容される一定範囲内の行動は違法性が阻却されると解し得るものの、親睦目的で行われた本件競技の前記の性質に照らすと、その範囲となるのは、ごく軽度の危険や衝突にとどまるといわざるを得ない。」そして、衝突回避が可能であったと認め、衝突を回避すべき注意義務違反があったとし、また、社会的に許容される範囲内とはいえないとして、違法性が阻却されないとしました。

さらに、「他者との衝突を回避するというのは、道路で歩行する場合等も含め、日常的に広く認められる基本的注意義務というべきであって、チームごとの順位をつける競技であるとはいえ、本件競技が競技者同士のボディコンタクトを予定したものではないことからすると、一般的な衝突回避義務がおよそ免除されていたと解することはできない。」

違法性阻却について、「スポーツ競技中、ルール違反さえなければ常に違法性が阻却されるとは解することはできず、当該スポーツの性格や事故の生じた具体的状況に即して検討すべきところ、幅広い参加者が親睦目的で参加するといった本件競技の性格に鑑みれば、本件競技に内在している危険として違法性が阻却されるのは、ごく軽度の危険や衝突に限られると解するのが相当である。」

「被控訴人は、競技者同士が対向して走行するといった形式で本件競技が行われたことにより危険が高まったと指摘して、主催者の側で、これを前提とした安全対策を講じるべきであって、競技参加者に損害分担の責任を負わせるべきではない旨主張する」が、被控訴人が回避可能であったといえる上、主催者の責任と競技者の責任とは択一的な関係にはないから、主催者の損害賠償責任の有無にかかわらず、その責任を免れない。

 

6 2審判決の評価と若干の私見

(1) スポーツ中の衝突回避義務について

2審判決が、「スポーツ競技中であるからといって、自らの位置方向と付近の状況を可能な限り随時確認して、他の競技者との衝突を回避するように注意すべき一般的な注意義務が存在することを否定することはできない」として、「他者との衝突を回避するというのは、道路で歩行する場合等も含め、日常的に広く認められる基本的注意義務というべき」としている点に大きな意義があると考えます。

判決では、スポーツ中といっても、他者に傷害を負わせるような衝突を避けるべき基本的注意義務があるとしているのです。スポーツ中の注意義務を考える場合、スポーツ中のプレーの萎縮(加害者のスポーツ権)とスポーツ中の安全性(被害者のスポーツ権)との比較衡量になりますが、生命身体の重要性からして、後者を優先させるべきことは明らかだといえるのではないでしょうか( http://gohda-law.com/blog/?p=632 参照)。もっとも、私は、スポーツ中の全ての傷害について、責任が生じると主張しているのではありません。あくまで、注意義務違反があった場合に限られるのであって、だからこそ、注意義務違反の有無の判断が重要となるのです。

 

(2) 社会的に許容される範囲の認定について

2審判決は、「本件競技がスポーツの一類型であることからすると、そのルールないしマナーに照らし社会的に許容される一定範囲内の行動は違法性が阻却されると解し得る」としつつも、「スポーツ競技中、ルール違反さえなければ常に違法性が阻却されるとは解することはできず、当該スポーツの性格や事故の生じた具体的状況に即して検討すべき」としています。これは、通常想定できる危険の範囲内であれば違法性を阻却し、その範囲を超えた場合には違法性を阻却しないとする通常想定内免責説(  http://gohda-law.com/blog/?p=593 参照)と同様に、一定範囲内であれば違法性を阻却するという見解(「限定免責説」といいます)を採用しています。

そして、これまで限定免責説を採用する判例では、後遺障害が残るような重度の傷害については、社会的に許容される範囲あるいは危険を引き受けている範囲を超えているとして、違法性を阻却しないとすることが多かったといえますが、本件2審判決では、限定免責説を採用しつつも、被害者に後遺障害が残らなかった本件においても一定範囲を超えているとして、違法性阻却を認めず、損害賠償責任を認めた点に大きな意義があるといえます。2審判決の認容額は10万円ですが、1審判決のように違法性が阻却され0円となるのと、違法性を阻却せず過失を認めて10万円の支払を認容するのとでは、その法的意義において雲泥の差があることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

なお、私は、スポーツ中のプレイヤー同士の事故について、スポーツをする人は一定程度危険を引受けているとしても、違法性阻却を検討するのではなく、過失の判断の中で検討すべきであり、ルール内免責説も通常想定内免責説も採用すべきではないと考えます。というのも、通常危険を引き受けているとする範囲の判断が困難なこと、きめ細やかな判断ができる過失の要素として検討すれば足りること、生じた結果から遡ってその違法性阻却の有無を判断することは結果責任に類する考え方であることから妥当でないと考えられるからです( http://gohda-law.com/blog/?p=632 参照)。

 

7 おわりに

上述したように、リングリレー2審判決の意義は、スポーツ中であってもコンタクトスポーツでない場合には他者に傷害を負わせないように衝突を回避する義務があること、そして、スポーツ中に社会的に許容される行動の範囲や通常想定される危険の範囲を従来よりも狭く解したことにあります。

私は、バドミントン事故判決やリングリレー2審判決を通じて、裁判所が損害を公平な分担すべく、従来よりも被害者救済に重きを置きはじめたことは間違いないと考えます。

 

 

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