弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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スポーツ団体の決定に対する不服申立について

1 はじめに

よく受ける相談として、「スポーツ団体の決定に不服があるのですが、どのようにすればよいですか」というものがあります。ここでの「決定」には様々なものがあり、たとえば、不利益処分、代表選考基準、同基準に基づく選考結果、役員人事、規則や規程の制定・改定などです。

このような相談をされる方は、スポーツ団体の外部から、その決定に不服があるため、決定を取り消させたり、変更させたりしたいと思っておられる方が殆どでしょう。

したがって今回は、スポーツ団体の決定に対する不服申立の方法と申立によって決定を変えられるかという観点から検討したいと思います。

 

2 スポーツ団体に認められる裁量

不服申立について述べる前に、スポーツ団体の決定とその裁量について説明しておきます。

スポーツ団体は、その団体に関わる事項について、「一定の範囲内での判断や行為の選択ができること」、すなわち「裁量」を有しています。裁量の範囲について、スポーツ団体によって異なるものの、一般的には、スポーツ団体の自立性や専門性から、ある程度広範に認められています。

このようにスポーツ団体が決定をする際にもある程度広い裁量が認められるため、決定に対し不服を申し立てても、余程の根拠がない限り取り消されたり、変更されたりしないといえます。

 

3 誰でもできる意見を述べる方法

スポーツ団体の決定について外部から意見を述べる方法として、スポーツ団体に対して意見を記した書面を送付したり、SNSやブログ等で自らの意見を発信したりすることが考えられます。これらの方法は原則として誰でもできます。

このような意見の内容が合理的であり、スポーツ団体の納得を得られる限りで、その決定が変更される可能性があります。

もっとも、スポーツ団体には、表明された意見に対し何らかの対応や応答をしなければならないという法的根拠もありません。とはいえ、SNS等で意見を表明し賛同者を多数得られれば、スポーツ団体としても何らかの対応をせざるを得なくなることもあり得ますし、書面をスポーツ団体に送付する場合に、弁護士名義であれば、スポーツ団体が対応や応答をすることが多いといえます。

仮にスポーツ団体が対応を迫られたとしても、前述したように、スポーツ団体はその決定に関し裁量を有していることから、その意見を受けて決定を変更することはごく稀だといえるでしょう。

 

4 スポーツ団体の不服申立制度を利用する方法

スポーツ団体に決定に対する不服申立の制度があれば、そこに申し立てることもできます。

このような制度は大抵その利用者は限定されており、誰でも不服申立ができるわけではないので、スポーツ団体の当該制度の規定等を確認する必要があります。

そして、利用できる立場にあったとしても、その他のスポーツ団体が決めた申立の要件を満たさなければなりませんが、これらがクリアされて有効に申し立てられれば、スポーツ団体は必ず何らかの対応をしなければなりません。

ただし、これまでも述べてきたように、スポーツ団体には裁量が認められますから、必ずしも決定が取り消されたり、変更されたりするわけではないことに注意が必要です。

 

5 スポーツ仲裁を利用する方法

不服申立の手段として、スポーツ団体の外部組織を利用することも考えられます。

利用しやすいのがスポーツ仲裁であり、国内の仲裁機関として(公財)日本スポーツ仲裁機構(JSAA)があります。

ただし、JSAAへの申立ては、誰でも、どのような不服でも、申し立てられるわけではありません。

すなわち「競技者等」が「競技団体」に対し、その「決定」に不服があるときで、「仲裁合意」がある場合に限り、申立ができるのです(スポーツ仲裁規則第2条参照)。

先ず「競技者等」とは、スポーツ競技における選手、 監督、コーチ、チームドクター、トレーナー、その他の競技支援要員及びそれらの者により構成されるチームをいい、競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者を除く(同規則第3条第2項)とされています。

また、「競技団体」とは、日本オリンピック委員会(JOC)、 日本スポーツ協会(JSPO)、日本障がい者スポーツ協会、各都道府県体育・スポーツ協会、及びこれらの加盟団体等(同規則第3条第1項)とされています。

加えて、スポーツ仲裁は、あくまで仲裁手続ですから当事者双方の仲裁パネルへの付託に関する合意である「仲裁合意」を要します。なお、競技団体によっては自動応諾条項(競技団体が申立てに応じて自動的に応諾するとの条項)を規定している場合もあるので確認してみて下さい。

少し専門的になりますが、争う対象の「決定」について、スポーツ団体が幾つかの決定をしていた場合に、どの決定を争うのかということも戦略的には重要となります。

実際のJSAAの仲裁判断をみてみると、代表選考を選手が争うケースや不利益処分を受けた選手やコーチ等がその処分を争うケースが多いといえます。もっとも、先に述べたようにスポーツ団体に裁量が認められるため、必ずしも決定が取り消されるわけではないことはこれまでの不服申立の方法と同様です。

 

6 裁判所に訴える方法

裁判所に訴えられないかと考える方も多いと思います。

提訴は、原則として誰でもできますが、コストと時間がかかることと、裁判所に門前払いされる可能性があること、これまで述べた方法と同様にスポーツ団体には裁量があることから、方法として採りづらいといえます。

ここで、門前払いについて説明を加えると、スポーツ団体には一定の自立性が認められ、内部のことは内部で解決することが妥当であると考えられるため、裁判所は決定の内容まで踏み込んで判断せずに門残払いしてしまうことが少なくありません(部分社会の法理、法律上の争訟性の欠如)。

それでも、裁判が有効であるケースもありますので、個別に検討していただければよいでしょう。

 

7 団体内部から変えていく方法

これまでは外部からスポーツ団体の決定を変える方法について検討してきましたが、自ら又は考えを同じくする人をスポーツ団体の役員として送り込み、その意見を反映させ、スポーツ団体の内部から変えていくということもあり得ます。この方法は迂遠なようにみえますが、スポーツ団体のあり方から根本的に変えていくことができます。

しかしながら、役員選考方法について明らかにしていないスポーツ団体が大多数であり、仮に役員選考方法のルールが明らかとなっていたとしても、役員人事についてもスポーツ団体に広範な裁量が認められることからすると、役員を送り込んで内部から変えていくことも決して簡単なことではないといえるでしょう。

 

8 おわりに

繰り返し述べてきたように、スポーツ団体の決定に対して不服申立をしたとしても、スポーツ団体にはその決定をするに際しても裁量が認められるため、決定を取り消したり、変更したりすることは困難であるといわざるを得ません。

とはいえ、下記のような場合には決定を覆すことができる可能性があります(スポーツ仲裁の判断基準)。

①スポーツ団体の決定がその制定した規則に違反している場合

②規則には違反していないがその決定が著しく合理性を欠く場合

③決定に至る手続に瑕疵(「かし」、不備と同義)がある場合

④スポーツ団体の規則自体が法秩序に違反し若しくは著しく合理性を欠く場合

以上のように、スポーツ団体の決定を争うことは簡単なことではありませんが、是非とも諦めずにトライして下さい。

 

 

 

 

 

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