弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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スポーツ仲裁を検討しているアスリートへ②

1 はじめに

 前回は、スポーツ仲裁とはどのようなものかを述べました(スポーツ仲裁を検討しているアスリートへ①)。今回は、申し立てる際にはどのような注意点があり、どのような点を検討すべきなのかについて述べます。

 なお、仲裁申立のための要件を吟味する段階を「本案前」いい、申立の中身(申立の趣旨)について判断する段階を「本案」といいますが、本案前と本案に分けて検討します。

 

2 本案前(仲裁申立のための要件を吟味する段階)の注意点

(1) ターゲットを何にするのか?

 スポーツ仲裁規則(以下、単に「規則」)第2条第1項に「この規則は、スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関が競技者等に対して行った決定(競技中になされる審判の判定は除く。)について、その決定に不服がある競技者等(その決定の間接的な影響を受けるだけの者は除く。)が申立人として、競技団体を被申立人としてする仲裁申立てに適用される。」と定められており、「何に対しても」スポーツ仲裁を申し立てられるわけではない点に注意が必要です。

 すなわち、「競技団体又はその機関(以下「競技団体等」)が競技者等に対して行った決定」に対して「競技者等」が申し立てられるのです。

 ここで「競技団体」とは、①公益財団法人日本オリンピック委員会、②公益財団法人日本体育協会(現日本スポーツ協会)、③公益財団法人日本障害者スポーツ協会(現日本パラスポーツ協会)、④各都道府県体育協会(又は都道府県スポーツ協会)、⑤前4号に定める団体の加盟若しくは準加盟又は傘下の団体を指します(規則第3条第1項)。

 よって、「競技団体」に該当しないスポーツ団体がした決定に対して申立はできないということになります。

 以上から、スポーツ仲裁申立のターゲットは、「競技団体等競技者等に対して行った決定」ということになります(「競技者等」については次項参照 )。

 ただし、「決定」と一口にいっても、どの「決定」をターゲットにするかの判断は容易ではないこともあります。たとえば、代表選考に関わる申立をするとしても、代表選考基準に対して申し立てるのか、代表選考大会の開催に対して申し立てるのか、選考大会を経て選考結果に対して申し立てるのか、といったように段階毎にターゲットとなる決定が異なってきます。

 また、競技団体等が行った決定であったとしても、競技中になされる審判の判定は除かれるので、この点でも注意を要します。

(2) 誰が申立人となれるのか?

 前述したように、規則第2条第1項によれば、競技団体等の競技者等に対する決定について競技者等が申し立てられることになります。

 そして、規則第3条第2項には「競技者等」の定義があり、「スポーツ競技における選手、監督、コーチ、チームドクター、トレーナー、その他の競技支援要員及びそれらの者により構成されるチームをいう。チームは監督その他の代表者により代表されるものとする。競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者を除く。」とされています。

 ここでの注意点は、「競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者を除く」という点です。たとえば、競技団体において、役職員に対して何らかの決定があったとしても、スポーツ仲裁の申立はできないということになります。私がよく受ける相談として、あるスポーツ団体の役員が役員人事について不服がありスポーツ仲裁を申し立てたいというものがありますが、このような申立はできないということになります。

(3)  仲裁合意を得られるか?

 スポーツ仲裁も「仲裁」ですから、申立人と被申立人の間で仲裁の手続により紛争解決を目指すとの合意が必要となります。ただし、スポーツ仲裁においては、申立人となり得る競技者等と被申立人となる競技団体との力の差は歴然としており、被申立人が仲裁合意をしないこともあるので、当事者間の公平性の確保の観点から、予め競技団体においてスポーツ仲裁を申し立てられたら必ず応じるとの自動応諾条項の採用が奨励されています(残念ながら法的義務まではありません)。

 よって、申立を検討する際に、自動応諾条項の確認は必須であるといえます(参考:仲裁条項採択状況(JSAA))。なお、中央競技団体(NF)に関しては、スポーツ団体ガバナンスコード原則11(1)「NFにおける懲罰や紛争について、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構によるスポーツ仲裁を利用できるよう自動応諾条項を定めること」とされています。

  したがって、申立をする前に、規程類をリサーチし、自動応諾条項の有無をチェックしなければなりません。自動応諾条項が見つからないとしても、申し立てることはできますが、被申立人が応諾しなかった場合は、手続は終了となってしまいます。なお、この場合、JSAAがその旨を公表することになっています(例:不応諾による手続終了)。

 

3 本案(申立の中身(趣旨)について判断する段階)に関する検討事項

 ⑴ 仲裁パネルが採用する判断基準

 本案において殆どの仲裁パネル(担当仲裁人)が採用する判断基準は以下のとおりです。

「日本スポーツ仲裁機構における過去の仲裁判断では、日本においてスポーツ競技を統括する国内スポーツ連盟については、その運営に一定の自律性が認められ、その限度において仲裁機関は、国内スポーツ連盟の決定を尊重しなければならないから、仲裁機関としては、

(1)国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合、

(2)規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、

(3)決定に至る手続に瑕疵がある場合、又は

(4)国内スポーツ連盟の制定した規則自体が法秩序に違反しもしくは著しく合理性を欠く場合

 において、それを取り消すことができる」

⑵ 判断基準に沿った戦略

 この判断基準は近時では殆どの仲裁パネルが採用しており、判断基準に沿った主張・立証をしていくことが必要となります。

 判断基準では、NFには自律性が認められ、その限度において仲裁機関は、NFの決定を尊重しなければならないとしており、NFに一定の裁量を認めている点に注意する必要があります。すなわち、決定自体の当否が判断されるわけではなく、裁量の逸脱があるのかないのかが判断されるのであり、ただ当該決定が不当であるということを主張しても取り消される可能性は低いということになります。

 よって、当該決定は裁量の範囲を逸脱していること、すなわち判断基準の⑴~⑷(以下「4要件」)に該当することを主張・立証することになります。

 なお、4要件について、全ての要件に該当する必要はなく、1つでも該当すれば取り消されますが、複数の要件に該当する可能性があるのであれば、いずれも主張・立証することが戦略的にはよいといえるでしょう。

 

3 おわりに

 これまで述べてきたように、アスリートにとって、スポーツ仲裁において越えていかなければならないハードルは少なくありません。よって、アスリートの側で、これらのハードルを越えていけるのか、予めよく吟味する必要があります。負ける勝負に時間やコストをかけても仕方がないからです。

 とはいえ、ときにスポーツ仲裁はアスリートにとって強力な武器となります。様々な要素を勘案して、申し立てるとなれば、迅速かつ準備万端にスポーツ仲裁を申し立てていただければよいと思います。

 

 

 

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