弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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スポーツ事故の近時判例紹介①(ゴールポスト転倒事故/福岡地裁久留米支部判R4.6.24)

1 はじめに

 スポーツ事故に関する近時の判例をとり上げ、ポイントとなる点について検討したいと思います。

 今回は、フットサルゴールポストが転倒し、小学校の児童がその下敷きになって死亡した事故に関し、児童の相続人である原告らが学校の設置者である地方自治体に対し損害賠償を請求した事件( 福岡地裁久留米支部判R4.6.24 )をとり上げます。

 

2 事案の概要(福岡地裁久留米支部判R4.6.24 091289_hanrei.pdf (courts.go.jp)

 本件は、被告である地方公共団体が設置する小学校において、体育の授業としてサッカーが実施されていたところ、同校の運動場に設置されていたフットサルゴールポストが転倒し、当時小学校4年生であったAがその下敷きになって死亡した事故に関し、Aの相続人(両親)である原告らが、被告に対し、以下の請求をしました。

 

3 原告らの請求について

①本件事故による損害賠償請求権について

 本件小学校の教員らには、本件ゴールポストを適切に固定しなかったなどの安全配慮義務違反があるとして、国家賠償法(以下、「国賠法」)1条1項に基づき、本件事故によりAに生じた損害及び原告らの固有の損害を合わせて、それぞれ1940万4936円及び遅延損害金の支払を求める(予備的に、本件ゴールポストには設置又は管理の瑕疵があると主張(国賠法2条1項))とともに

②本件事故の原因に関する調査報告義務違反による損害賠償請求権について、

 被告は、原告らと被告との間の在学契約関係上の付随義務として、原告らに対し、本件事故について十分に調査を行い、その結果を原告らに報告し、調査に関して原告らの意向を確認し配慮する義務があるにもかかわらず、被告がこれらの義務を怠ったとして、国賠法1条1項に基づき、それぞれ損害賠償金220万円及び遅延損害金の支払を求めました。

 

4 裁判所の判断

  原告の請求のうち、上記①に関し、本件小学校校長は、本件事故の発生に対する予見可能性を認定した上で、本件小学校の安全点検担当教員や点検担当の教員をして、本件ゴールポストの固定状況について点検し、本件ゴールポストの左右土台フレームに結束されたロープと鉄杭を結ぶ方法などによって固定しておくべき注意義務があったにもかかわらず、この義務を怠り、その結果、本件事故当時、本件ゴールポストの左右土台フレームはいずれも固定されていなかったことをもって、国賠法1条1項の過失が認められ、原告らは、被告に対し、国賠法1条1項に基づく損害賠償として、それぞれ1830万0851円及びこれに対する平成29年1月 13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を認容し、その他の請求(上記②など)については棄却されています。

 

5 本判決のポイント

(1)  亡くなったA君や遺族の思い

 本件においては、被害者のA君は亡くなっています。A君が本件事故についてどのような思いで亡くなったかは知るよしもありませんが、事故から訴訟提起まで、そして本判決を経て、さらなる当事者間での話し合いなど、本当の解決がなされるまで(本当の解決があるのかも分かりませんが)に、遺族に様々な思いがあったと想像に難くありません。

 裁判が全てを解決してくれるわけではありませんが、一つの区切りをつけてくれることも確かだと思います。

(2) 本件小学校校長の注意義務違反の内容

 人が死傷した事故において損害賠償請求が認められる場合、注意義務違反(安全配慮違反)が認定されます。今後の事故予防の観点からは、注意義務の具体的内容を確認し、その内容を実践していくことが重要です。

 本判決では、「本件ゴールポストの固定状況について点検し、本件ゴールポストの左右土台フレームに結束されたロープと鉄杭を結ぶ方法などによって固定しておくべき注意義務があった」とされていることから、ゴールポストについては点検、適切な固定が重要であることが分かります。

(3) ゴール転倒事故

 サッカーゴール(フットサルゴール)、ハンドボールゴールやバスケットボールゴールの転倒による事故は少なからず報告されており、学校の責任を認めた本件の判断は評価できるものと考えます。

 今後とも、このような回避できる事故をしっかりと回避していくことの重要性は言うまでもありません。なお、ゴールの転倒事故については機会を改めて検討します。

(4)   過失相殺

 本件においては、過失相殺について、少し検討を加えておきたいと思います。

 判決では、「本件校長を除く教員ですら、サッカーゴールのゴールポストが危険であるという認識を持っていなかったのであるから、ましてや、ゴールポストが危険であるという指導を受けていない、Aを含む本件小学校の4年生の児童が、本件ゴールポストが転倒するといった危険性を認識していたとは到底考えられない。そして、本件ゴールポストは、破れたゴールネットを固定するためのロープが、クロスバー部分から下方に弛んだ状態になっていたところ、サッカーの試合中に、味方がゴールを決めたことに喜んで上記ロープにぶら下がること自体、突発的な行為であって、小学校4年生の児童にとってそもそも非難し得る程度の低いものであるといえる。そうすると、当時小学校4年生の児童であり、ゴールポスト転倒の危険性について何ら指導を受けていなかったAにおいて、本件ゴールポストのロープにぶら下がることの危険性を認識できたとはいえないし、行為の性質としても非難し得る程度は低いといえるから、Aについて、損害賠償額を定める上で公平の見地から斟酌しなければならないほどの不注意があったとはいえない。さらに、安全点検を徹底する義務を負っているのに、定期的な安全点検と授業前の安全点検をともに履践せず、本件ゴールポストについて必要な 固定措置が取られていないことを見逃したという被告の過失の重大性に鑑みると、亡Aの過失を斟酌すべきであるという被告の主張は採用できない。」(過失相殺しない理由の一部抜粋)としています。

 過失相殺は、読んで字のごとく、加害者側の「過失」と被害者側の「過失」を相殺するものですが、ここでの被害者側の「過失」は、不法行為の要件の過失(加害者側の「過失」)あるいは債務不履行の帰責事由とは異なり「減額を相当とするような被害者側の事情」と解され、その立証責任は加害者側にあるとされています。

 過失相殺は、裁判所の裁量により認められること、とりわけスポーツ事故の場合、交通事故と比較して、その基準があいまいであること、殆どの場合、1割単位で減額され、減額の幅が大きいことがあります。

 このようなことから、被害者側からすると厄介な規定で、予測可能性がなくバッサリ減額されることも少なくなく、訴訟の中で戦いづらいところでもあるといえますが、本件においては、過失相殺をしない理由が詳細に述べられているので、参考にされるとよいと思います(上記は一部抜粋ですので判決文に当たられることをお勧めします)。

 

6 おわりに

 上記に検討した点以外の、たとえば調査報告義務に関する検討は、紙幅の関係上、機会を改めたいと思います。

 判例は、ひとつの事例判断に過ぎないのですが、訴訟の戦略を立てる際にも、今後の事故予防にも役に立つので、これから少しずつ紹介していきたいと考えています。

 

 

 

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