弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

事務所案内

内観

合田綜合法律事務所
〒104-0028
東京都中央区八重洲2-11-2
城辺橋ビル4階

TEL : 03-3527-9415
FAX : 03-3527-9416

10:30~18:30(月曜~金曜、祝日は除く)

投稿者のアーカイブ

「被告」と「被告人」

1 法律相談をしていると、民事事件で訴えられて被告となった場合に、「今後、私は刑罰に処せられるのでしょうか」などと言われる方がいらっしゃいます。実際、このような誤解は少なくないと感じています。
 
 では、何故このような誤解が生じるのでしょうか。
 
 いくつか理由が考えられるでしょうが、最大の理由は、マスコミが被告と被告人を区別することなく、「被告」と呼び習わしていることにあると思います。
 
2 法律上、民事事件において、原告に訴えられた人や法人を「被告」、刑事事件において、検察に起訴された人を「被告人」といいます。
 
 ところが、裁判所から「被告〜」(〜の部分には自分の名前が入ります)と記載された民事事件の訴状が届けば、自分も新聞やテレビなどで取り沙汰される「被告」であって、この先刑罰を科せられるのではないかと不安になっても無理はないと思います。
 
 私が調べた限りでは、マスコミが何故このような表記をするのか、確たる根拠はないようです。国民に法律に対して誤解を生じさせ、混乱を招いている以上、これらの不都合の解消よりも重要な根拠がないのであれば、今すぐこれらのことは改めるべきと考えます。
 
 なお、刑事事件における被疑者(捜査機関に嫌疑をかけられて起訴されるまで)を、マスコミではほぼ同義の用語として「容疑者」と言いますが、これも法律用語ではなく、法律に対する誤解を招く要因になると思います。
 
3 本来、民法や刑法といった国民生活に関わる身近な法律は、一読してある程度の理解ができるべきものであるはずです。
 
 それにもかかわらず、それらの法律は、実際には普通の人が読んで非常に分かり辛い上に(民法については改正作業が進んでいるようです)、先に書いたようにマスコミが用語の本来の意味と異なる意味で用いたり、異なる用語を用いたりすることで、益々理解し難いものとなっています。
 
 私たち法曹も、法律や法律用語をきちんと理解し易く説明していきたいと思いますし、同時に、現行の法律については、より分かり易く改正されるように、新しい法律については、平易な文で立法されるように、関係機関に対し働きかけていくよう努めたいとも思います。
 
 
 

スポーツ法律相談会(無料)

トラブルに発展しそうなことや、法的に問題になりそうなことがあった場合に、弁護士に相談するほうが良いのかな、ということは少なくないのではないでしょうか。

そうはいっても、いざ弁護士に相談する段になると途端に憂鬱になり、ついつい相談が遅くなるということがあると思います。

そのように遅くなる一因として、費用が高額であると考えられていることがあるかもしれません。

また、弁護士に相談なんて敷居が高いし、なかなかそんな機会もないと思っておられる方もいらっしゃるでしょう。

そこで、敷居を少しだけ下げさせていただき、下記の要領で、無料のスポーツ法律相談会を実施したいと思います。

スポーツ法律相談の対象は、スポーツ団体内でハラスメントや体罰を受けた、代表選考に納得がいかない、ドーピング検査に不安がある、スポーツ事故に遭った、スポーツ団体のガバナンスの仕方が分からないなど典型的なスポーツ法に関わる案件などですが、少しでもスポーツに関わっていればご相談をお受けします。
また、法的問題なのか判断がつかないときもご相談ください。

弁護士への相談は、原則として早ければ早いほど良いといえますので、この機会に是非とも、スポーツ法律相談をご利用ください。

 

ご希望の方は、お問い合わせフォームに必要事項(相談内容は必ずご記入ください)、及びご希望の時間帯(各時間帯は下記を参照し、相談内容欄にご記入ください)をご記入の上、ご予約ください。
なお、ご予約なき場合は相談をお受けできませんので、予めご承知おきください。

スポーツ法律相談会(無料)

場所:合田綜合法律事務所(アクセス

日時:5月24日(土)11:00~16:30(完全予約制、お一人30分)

(1)11:00〜11:30
(2)11:30〜12:00
(3)12:00〜12:30
(4)12:30〜13:00
(5)13:00〜13:30
(6)14:00〜14:30
(7)14:30〜15:00
(8)15:00〜15:30
(9)15:30〜16:00
(10)16:00〜16:30

 

 

裁判や交渉における「思い」

弁護士は、一方の当事者である依頼者の代理人や弁護人として、当事者の間に入り、依頼者の利益のために働きます。

お金を払って弁護士に依頼する以上、「弁護士に依頼すれば後は弁護士に任せておけばよい」と考えている方も多いと思います。

これは、ある意味で当然のことと思います。

だって、そのためにお金を払っているわけですから。

そのように弁護士にお任せで首尾良くいくこともあります。

ただ、そうでないときもままあります。

裁判にしても交渉にしても、全て人と人との関わりです。

依頼者も人なら、相手方当事者も人、その代理人も人、そしてまた判断者である裁判官も人です。

しかも、そこでは、それぞれの人が真剣勝負をするのです。

裁判や交渉では、それぞれの人の剣の腕前はさることながら、最後の最後は、人の「気合」や「やる気」、すなわち「思い」が物を言うと思うのです。

もし弁護士に依頼して、望みを叶えたいのであれば、弁護士にお任せではなく、弁護士という専門家を使って、「思い」を相手方や判断者にぶつけて、響かせるようにしてはいかがでしょうか。

そうすれば、自ずと結果が伴うことも多くなるでしょうし、例え完全な形での望ましい結果が得られなくても、ある種の満足感は得られると思います。

もちろん、弁護士である私も、依頼者の「思い」を共有して、自分の「思い」をも乗せて、裁判や交渉に臨むようにしたいと思っています。

 

 

アンチドーピング講習会

1 3月22日、23日に、「クライミング・日本ユース選手権2014」(於 千葉県印西市松山下公園総合体育館)が開催され、そこで合わせて催されたアンチドーピング講習会の講師を務めました。
 受講者は、ユースやジュニアの選手、その保護者、指導者などでした。

  そこでは、受講者の皆さんに以下の問題を考えてもらいました。

事例1】 
 クライマーAが風邪をひきました。
 そこで、昔からのかかりつけの医者の先生が「ドーピング違反とはならないから大丈夫だ」と言っていた風邪薬を飲みました。
 その後試合に出て、ドーピング検査の対象となり陽性となりました。
 Aはドーピング違反となるでしょうか?

事例2】 
 クライマーBは、普段からドーピング違反にならないように気を付けていました。
 ところが、試合でドーピング検査の対象となり、陽性となってしまいました。
 これは、アイソレーションルームで、Bと熾烈なポイント争いをしていたクライマーXが、Bがトイレに行った隙に巧妙に飲み物に禁止物質を入れたからでした。
 Bはドーピング違反になるでしょうか?

事例3】 
 クライマーCはコンペで決勝の常連でしたが、その試合はたまたま調子が悪く、決勝に残れませんでした。
 Cはとても気落ちして、そのまま帰ってしまいました。
 なお、Cは、禁止物質を一切採っておらず、実際に禁止物質は身体に入っていませんでしたが、ドーピング検査の通知を受けていました。
 Cはドーピング違反になるでしょうか?

事例4】 
 クライマーDは、持病の治療のため、薬Mを飲む必要がありました。
 ただ、薬Mは、禁止物質にあたり、代用となる薬がなく、Dは薬Mを飲まないと病状が悪化します。
 Dは、仕方なく薬Mを飲んで、ドーピング検査対象にならないことを祈って試合に臨みましたが、運悪く検査対象となり、陽性となりました。
 Dはドーピング違反となるでしょうか?

3 事例1~事例4のクライマーA,B,C,Dはとても可哀想ですが、全員がドーピング違反になるというのが正解でした。講習会を二回行い、全問正解した受講者は、一回目(20人程度)では3~4人、二回目(35人程度)では0人でした。

 若干の解説を加えます。
 事例1と事例2、事例4については、検体の検査結果が陽性だったという理由で、有無を言わせずドーピング違反となることを理解してもらうための事例問題でした。すなわち、検査結果が陽性になると、「意図的」であれば当然、「うっかり」(過失)でも、「これはあまりに可哀想だよね」という場合でも、ドーピング違反に該当するのであり、過失等がないということは反論の場で主張していくしかありません。
 事例3については、身体に禁止物質が入っていなくても、検査の拒否という理由でドーピング違反となることを知ってもらうための事例問題でした。
 また、事例4については、TUE(治療目的使用に係る除外措置)を申請すべき事例でした。

 なお、違反に対する処分はその試合の成績の失効と資格停止2年間が原則であることは、半数以上の受講者が知っていました。

  ちょっと意地悪な問題だったかもしれません。しかし、限界事例を考えてみることで、リスクと向き合い、リスクを管理しようと努め、「自分の身は自分で守らなければならない」ということを肝に銘じて欲しかったのです。

 これはクライミングにおいても同様で、自身の安全は自分で管理しなければなりません。クライミングでは、一つのミスが命取りにもなりかねないからです。

 クライミング、特に岩場でのクライミングでは、リスクは常に付きまといますし、またリスクをコントロールしてこその醍醐味があります。受講してくれたユースのクライマーには、ドーピングを含めた様々なリスクと上手く付き合いながら、更なる高みを目指してもらいたいと心から思います。

 

 

少年事件について

面会を重ねるうちに、少年がみるみる良い方向に変化していく姿を見るにつけて、少年事件にとてもやり甲斐を感じます。他方で、制度自体に様々な違和感を覚えることがあります。

 

  少年事件を、成人の刑事事件と較べたとき、その違和感は大きくなります。

 世の中では少年の重大犯罪に対する厳罰化が叫ばれ、少年法もその方向に沿って改正され、また今後更に改正されるようです。

 少年の重大犯罪に対する厳罰化もある程度は理解できます。しかし、成人であれば軽い犯罪といえる場合でも、少年が少年院送りになるなどして、それは重すぎるだろうと思うときが少なからずあります。

 

  例えば、成人の場合、窃盗などの財産犯においては、被害者と示談が成立したり、嘆願書を書いてもらったりすると、「被害者が良いと言ってるんだから、良いだろう」という理屈で、情状面でかなりプラスに作用し、他の情状との関係もありますが、起訴されなかったり、執行猶予が付いたりして身柄拘束を解かれることも少なくありません。

 ところが、少年の場合では、仮に示談書や嘆願書があっても、少年の反省が足りないなどとして、更生のために教育する必要があると判断されると、比較的簡単に少年院に入れられてしまいます。そして、少年事件は、成人でいうところの起訴猶予ということがとなく、原則として全ての事件が家庭裁判所に送致されます。しかも、身柄拘束されていた期間を少年院の入院期間に算入されることもないのです。

 すなわち、成人であれば起訴猶予になったり執行猶予が付く事案でも、少年であるが故に少年院に行くことがあるのです。

 

4  以上に述べたことの根底には、少年は未熟でありそれ故に柔軟に更正できるという可塑性があるため、成人とは異なる扱いをするということや、少年院は刑務所と異なり、矯正の教育という目的をもった施設であるということがあります。

 しかしながら、一方で少年の厳罰化すなわち教育というよりも処罰という観点から成人と同じような扱いにしようとし、他方で教育という名のもと成人に近付けるどころか成人よりも厳しい処分となることを容認するとすれば、少年事件をめぐる制度は矛盾を孕んだものとなるのであり、これは見過ごせない問題だと思います。

 少年事件をめぐる制度全体に、かなりの制度疲労が現れている気がします。

 なお、少年院の評価については様々あると思いますが、やはり一度貼られたレッテルは中々とれないという点で、少年の将来に暗い影を落とすことは間違いがないと思います。

 

5 これまでに述べた議論は立法論の要素が大きくなってしまいました。しかし、運用論としても、裁判所がそれらの事情を踏まえて、柔軟に運用していく必要があるのであり、付添人の弁護士も、裁判所が柔軟に判断するよう絶えず促していく必要があると思うのです。

 

 

刑事事件の量刑の予測について

弁護人として刑事事件を扱っていて、被疑者や被告人の最大の関心事の一つに「どれくらいの刑となりそうか」ということがあります。
 ただし、一貫して無罪を主張している場合は、そもそも有罪を想定していないでしょうから除きます。

プロとしては、量刑についてピンポイントでスパッと答えられれば良いのですが、なかなかそうもいきません。
 例えば、 控訴事件(一審判決に不服があれば控訴ができます)の弁護人をやっていると、一審弁護人の量刑の予測が判決と違ったという不満を聞くことがあります。その被告人は、一審弁護人が言った量刑の予測を頼りに頑張ってきたというのです。
 しかし、量刑は、ケースバイケースという他なく、最終的には裁判官の判断次第となります。
 すなわち、弁護人が量刑を予測したとしても、それはあくまでその弁護人の予測にすぎず、予測が判決と異なってもいわば仕方のないことともいえるのです。

量刑の予測がとても難しいとはいえ、弁護人はプロとして当然に量刑の見通しは話さなければなりません。
 ただ、先に述べたような理由で、その見通しはある程度の幅をもった予測にならざるを得ません。
 そのような訳ですから、弁護人に量刑の見通しを聞いてみて、量刑をピンポイントで予測・断言するような場合は、眉に唾をして聞いた方が良いでしょう。

 私が量刑について聞かれたときには、以下のように答えます。

「量刑は~から~までの間になると思います。貴方の言い分や貴方に有利な客観的な事実を裁判所に分かってもらえれば、自ずと適正な刑になるので、そうなるよう頑張っていきましょう。」

 弁護人としては、量刑の予測よりもむしろ刑事手続を通して、やったことの責任だけはきちっと取ってもらうようにし、その上でこれからどのように更生し、その後の人生をどう生きていくかを一緒に考えていくことこそ重要であると思うのです。

 

 

ドーピングはなぜ禁じられるのでしょうか。

 正直に告白すると、私はドーピングがなぜ禁止されるのか、よくわかりませんでした。すっと腑に落ちないのです。
 スポーツの本質の一つとして限界を追い求めていくということがあるのならば、ドーピングを禁止せずドーピングも含めて「何でも有り」で限界を追い求めれば良いのではないかとも思えたのです。
 また、ドーピングは誰か他者の人権を明確に侵害しているとまではいえないので、それは明らかに悪いことだといえない難しさがあると思います。

 一般に、ドーピング禁止の理由として、(1)フェアプレーの精神に反する、(2)アスリートの健康を害する、(3)反社会的行為である、ということが挙げられます。
 これらの理由には、表面的には納得がいくものの、胸を張ってこれらを人に説明できるかと言えばとてもそんなことはありませんでした。
 (1)については、「そもそもフェアプレーって何?」と問いたくなります。フェアプレー精神の定義の中には「ルールを守ること」というものもあり、ドーピング禁止というルールを決めるのに、ルールを守ることが理由となっては論理が循環してしまいます。
 (2)についても、多かれ少なかれトップアスリートは健康を害するか否かギリギリのところでハードなトレーニングしているわけで、これを理由にするのは難しいと思います。
 (3)反社会的行為というのも、日本の社会が反ドーピングに対してどれほどの認識・理解があるかといえば、心許ない限りです。

 ところが、自転車界の内実を書いた「シークレット・レース」(タイラー・ハミルトン、ダニエル・コイル 小学館文庫)を読んで、ドーピングというものの罪深さが少なからず理解はできた気がします。
 この本では、つい最近まで、自転車界ではドーピングをすることなしにトップサイクリストとしてレースの上位にいることは限りなく不可能であったことがリアルに綴られています(この本は、読み物として優れているだけでなく、スポーツとは何かということまで考えさせてくれ、お薦めです)。
 自転車界では長らく、ツービートの「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というギャグを地でいっている感がありました。ただ、当時のトップサイクリストは、ドーピングをして楽をしていたわけではなく、ドーピングをした上で凄まじいトレーニングをして、その座を維持していたのです。そして、自転車界では、ドーピング禁止という赤信号を無視して渡らない限りは、対岸のトップサイクリストの地位に辿り着けなかったのです。しかも、その赤信号はいつまで経っても青に変わらず、ドーピングをしないことは残念ながらトップサイクリストの地位を諦めることを意味すると信じられていたのです。

 このような不幸な状況を打開するために、やはりドーピングは禁止せざるを得ないし、禁止すべきなのだと思いました。
 ただし、だからと言って現状のようなトップアスリートに対する度を超えた監視や厳しすぎる制裁を課すことが本当に必要なのかはまだまだ議論の余地があると思います。ドーピングを巧妙に行う側とドーピングを何としても規制しようとする側とがイタチごっこをして、これまで圧倒的に前者が後者を出し抜いていたがために、このようなとりわけ厳しいルールとなったのかもしれません。
 とはいえ、現にルールとして存在する以上、アスリートとしてはドーピングに関するルールを遵守せざるを得ません。私が第一になすべきことは、アスリートにドーピングをしている認識がないのにうっかりして陽性反応が出るようなことが、間違ってもないように、アスリートの注意を喚起することだと考えています。一度、陽性反応が出ると、これを覆すことは相当困難であり、仮に覆ったとしても、ダーティーなイメージが残存する可能性が高いからです。

 一部のトップアスリート(トップクライマー)には、基本的な仕組みや気を付けるべきことを話しました。まだまだ、若いこれから世界で活躍しようとしているアスリートにドーピングのことを知ってもらう必要があると思っています。
 ドーピングにまつわる事柄はとかく後ろ向きな感が否めませんが、事が起こってからでは殆どの場合は手遅れである以上、アスリートはドーピングに常に関心を持ち、常に注意していただきたいと思います。
                                                              

 

 

スポーツ仲裁って?

 あるスポーツ団体(以下、単に「団体」といいます)が所属する選手に対し何らかの決定をし、選手はその決定に対し不服や不満がある場合どうすればよいのでしょうか?

  例えば、選手が不祥事を起こしたとされ、そのことで団体が選手の処分を決定したとします。ところが、選手には全く身に覚えがないとか、身に覚えはあるもののその処分が重過ぎるとかいった不服がある場合が考えられます。

  また、団体が、その競技において重要な試合(例えば、オリンピック、世界選手権、ワールドカップなど)の代表を選考したが、その選考に対し不服があるといったこともあるでしょう。

  こういった場合、先ずは、決定をした団体に不服である旨を申し立てるべきでしょう。団体は、この不服申立てに対して、何らかの対応をすると思われますが、通常であれば、不服内容等を検討・審査し、決定の取消、変更あるいは維持という判断をすることになると思います。

 

2 JSAAって?

  それでは、そのような不服申立てに対する団体の判断に納得がいかない選手は、どのようにすべきでしょうか。

  このような場合に、日本スポーツ仲裁機構(JSAA)に仲裁申立てをすることが考えられます。

  JSAAは、スポーツをめぐる様々な争い・トラブルを公平、適正かつ迅速に解決するための公益財団法人です。JSAAに申し立てることで、公正、中立かつ独立した仲裁人で構成されるスポーツ仲裁パネルが、申立てについて、公正かつ迅速に判断します(これを「スポーツ仲裁規則に基づく仲裁」といいます。JSAAには他の仲裁・調停の手続きがありますが、ここでは使い勝手のよい「スポーツ仲裁規則に基づく仲裁」について書きます)。

 

3 JSAAに申し立てる際の注意点は?

  仲裁をするためには、両当事者が仲裁をすることに同意しなければなりません。したがって、選手が仲裁を申し立てる場合に、団体の規則等で選手が仲裁を申し立てれば応じる旨の定め(自動受諾条項)があればよいのですが、そのような定めがない場合は仲裁申立の際に団体が仲裁に応諾しないと申立てが却下されてしまいますのでご注意ください。

  また、JSAAの判断は最終のものであり、JSAAの判断に対する不服を申し立てることはできません。すなわち、JSAAに判断を委ねた以上は、判断が出ればそれに従うしか道はありません。

  申立料金は5万円となっています。これを高いと考えるか、安いと考えるかは申立人次第ですが、専門家として言わせていただくと、仲裁の公正さや迅速さからすると、決して高くはない額だと思います。

  代理人をつけるかどうかも費用との兼ね合いで悩ましいと思われますが、選手生命を左右するような重要な事項に関しては、団体と対等にわたり合うためにも代理人をつけるべきでしょう。代理人としては、やはりスポーツ法務に詳しい弁護士が適切だと思います。

 

4 最後に

  私は、仲裁人等の候補者としてJSAAに登録されており、近時、実際に仲裁人を務めさせていただきました。

  その中で感じたことは、スポーツ仲裁パネルは有能かつ公正な仲裁人で構成されますので(私が有能であるかは別として)、一刻も早く公平、適正な判断を求めたいという場合には特に有用な制度であるということです。 

 

弁護士費用を相手方から取れますか。

1 弁護士をしていて、よく聞かれることの一つに「弁護士費用は相手から取れますか。」というものがあります。

 その答えは、「訴訟における請求の仕方によって異なります。ただし、弁護士費用を取れる場合でも、実際に弁護士に支払った全額を相手方から回収できることは稀です。」ということになります。

 そして、私がこのように答えると、大抵の方から、「えぇ~、そうなんですか!?」という、さも意外そうな反応が返ってきます。

2 以下で、理由を説明します。
(1) 前提として、訴訟以外の示談等で解決した場合には、弁護士費用は各自負担するのが通常です。

 そして、訴訟となった場合でも勝訴が前提となることは容易に想像がつくでしょう。

(2) 問題は「請求の仕方によって異なる」という点です。

 専門的になってしまいますが、相手方の不注意な行為などで当方に損害が生じたときにその損害の賠償を求める場合(不法行為責任)には弁護士費用を請求することができるが、相手方の契約違反の責任を追及する場合(契約責任)には請求できないと裁判所は考えています。

 わかりやすい例でいうと、前者は交通事故の被害者が加害者に損害の賠償を求める場合、後者は貸したお金を返さないためその返済を求める場合が挙げられます。

(3) そして、弁護士費用の請求が認められる場合でも、ケースにより異なりますが、認められた損害額の1割程度というのが相場のようです。

 すなわち、勝訴したとしても、実際に弁護士に支払った額と関係なく弁護士費用の額が決められることになります。

 さらには、勝訴して認められた弁護士費用より実際に支払った弁護士費用の方が高額であることが多いので、「実際に弁護士に支払った全額を相手方から回収できることは稀」という回答になります。

(4) 話は少し逸れますが、勝訴した判決に「訴訟費用は~の負担とする」という文言があったとしても、その「訴訟費用」の中には原則として弁護士費用は含まれないと解されています。

 この「訴訟費用」も誤解を生む大きな原因だと思います。

3 ……とここまでは、弁護士に聞けば誰でも答えてくれるところだと思います。

 私なりのアドバイスを差し上げるとすれば、基本的には弁護士費用は相手方から回収が難しいもので、訴訟の勝敗を別にしたコストだと考えていただくということです。

 そうなるとやはり、弁護士に依頼する時点で、コストである弁護士費用がいくらかという点が大きな関心事になるのであり、提示された金額を支払うことによって満足の得られる結果が得られるのか、という点をよく検討していただくことが必要になると思います。

 

ドーピングについて

1 日本人クライマーがワールドカップをはじめとする世界の桧舞台で活躍し、表彰台に立つ姿も珍しくなくなってきました。

 今回は、そのようなトップ・アスリートは特に気をつけていただきたいドーピングの問題について書きたいと思います。

2 そもそも、ドーピングは、なぜいけないものとされるのでしょうか。

 JADA(日本アンチ・ドーピング機構)によれば、ドーピングは(1)フェアプレーの精神に反する、(2)アスリートの健康を害する、(3)反社会的行為である、といった、スポーツの価値の根幹を損なう、スポーツに正々堂々と向かうことができない「ずる」くて「危険」な行為であるから、ということです。

 このような理由がすっと腑に落ちる方はよいのですが、「そうなの!?」という方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。また、幸いにして日本はドーピングに関してクリーンな国とされていますが、それ故かドーピングへの関心も薄いというのが現状だと思います。

3 そうはいっても、アンチ・ドーピングは、もはや世界各国共通のほとんど全スポーツに適用されるルールともいえます。

 そして、違反行為は、世界ドーピング禁止規程・日本ドーピング禁止規程にいくつか規定されていますが、禁止物質が体内から検出された場合や禁止物質等を使用した場合には、故意や過失を要件とせず(厳格責任)、その制裁はたいへん厳しいものです。

 故意や過失を要件としないということは、「禁止物質とは知りませんでした」とか、「体内から検出されても私に落ち度はありません」とかいったことが基本的に主張できないということです(なお、治療のためどうしても禁止物質を使用しなければならない場合には、「治療目的使用に係る除外措置」(TUE)の手続きがあります)。

 また、制裁の厳しさという点については、一番多いと思われる制裁例が、競技会における競技結果の失効及び2年間の資格停止であることからもお分かりいただけると思います。

 さらに面倒なことに、禁止物質等が定期的に改定されるため、常に何が禁止されているか注視しておく必要があります。

4 このようなドーピング禁止規程の厳しさは、弁護士からみても「厳しすぎるのではないか」と思うほどですが、ルールとして存在する以上は、アスリートはきちんと守っていかなければなりません。

 その際のポイントになることは次のとおりです。

(1) 先ずは、ドーピングについてアスリート自身がよく知り、ドーピング違反とされないように細心の注意を払って予防するということが重要であるといえます。

 「そのようなことは当たり前のことではないか」と思われるかもしれませんが、他人任せよりも、アスリート自身も気を付けていた方が、ドーピング違反のリスクを激減できると考えられるからです。

 そして、「どの様な行為が違反行為であるのか」、「どの様なものが禁止物質や禁止方法とされているのか」を知った上でそれらのルールに抵触しないようにすべきです。

 先に書きましたが、一度違反してしまうと、それに対する反論は難しく、かつその制裁は相当厳しいものですから、用心に用心を重ねた方がよいと思われます。

 アンチ・ドーピングについては、JADAのホームページには詳しく掲載されていますから、自分で読んで理解しようとすることを勧めます。

 また、アンチ・ドーピングのセミナーなどに参加し、積極的に知識を吸収しようとするのもよいでしょう。

(2) 次に、用心していたにもかかわらず、ドーピング違反とされてしまった場合は、迷わず専門の弁護士に相談してください。

 スポーツ選手にとって、試合に出られなくなるような制裁を受けることは選手生命を奪われることに等しいといえるでしょう。

 そうだとすれば、事実認定に誤りがあったり、手続的に間違いがあったりしたことを根拠として、制裁を取り消したり、軽減したりする手立てがないかを、専門家である弁護士と早急に検討する必要があるのではないでしょうか。

 

記事一覧