弁護士 合田雄治郎

合田 雄治郎

私は、アスリート(スポーツ選手)を全面的にサポートするための法律事務所として、合田綜合法律事務所を設立いたしました。
アスリート特有の問題(スポーツ事故、スポンサー契約、対所属団体交渉、代表選考問題、ドーピング問題、体罰問題など)のみならず、日常生活に関わるトータルな問題(一般民事、刑事事件など)においてリーガルサービスを提供いたします。

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「指導者による暴力等の不適切な行為をなくすために③〜体罰と暴力等不適切行為〜」

1 はじめに

「指導者による暴力等の不適切な行為をなくすために」と題し、第1回目は「相談件数の増加について」、第2回目は「暴力等不適切行為とその行為者類型」を述べてきました。

 

今回は、これまで述べてきた「暴力等不適切行為」と対比しながら、「体罰」に焦点を当てます。一般に、「体罰」は、「暴力等不適切行為」とほぼ同じ意味で使われています。しかし、法的には、両者は異なるものだといえます。今回はこのことを詳しく説明していきたいと思います。

 

2 体罰とは

「体罰」という文言は、学校教育法11条「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」に登場します。

 

この規定から、校長や教員(以下、「教員等」)は懲戒権を有していること、教員等は「体罰」を加えてはならないことが分かります。これらのことから、「体罰」は、行為者に懲戒権を有することを前提として、懲戒権の範囲を超えた行為に使われる文言だということになります。

 

ここで「懲戒権」についても触れておきます。そもそも「懲戒」とは、不当・不正な行為を再び繰り返さないよう制裁を加えることをいいます。そして、法律上、懲戒をする権限である「懲戒権」を有するのは、教員等および親権者(民法822条)のみです。したがって、教員等が教育の一環として懲戒を加えること、あるいは親権者が子の監護・教育の一環として自らの子に懲戒を加えることはできても、それ以外の者は一切の懲戒をすることができないのです。

 

スポーツの現場で、たとえば部活動において教員等が指導者として懲戒権を行使することは多々ありえますが、指導者が親権者であり、自らの子のみに監護・教育の一環として懲戒を加えること(他の子に対しては当然懲戒権を有していません)は極めて稀といえるので、本欄では懲戒権を有する者として、教員等のみについて考えます。

 

3  どのような行為が体罰にあたるか

体罰が法的に上記のように考えられるとして、具体的にどのような行為が体罰にあたるのでしょうか。

 

この点について、文部科学省が、通知「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について」(平成19年2月5日初等中等教育局長通知(18文科第1019号))により、以下のように定めています。

「教員等が児童生徒に対して行った懲戒の行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の 発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要があり、その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とする懲戒(殴る、 蹴る等)、被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒(正座・ 直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。」

 

この文科省の「体罰」の定義は極めて分かりづらいものとなっていますが、要は、ある程度の指針は示せるが最終的には事案ごとに状況を踏まえて総合判断しなければならないということです。そしてこの定義を踏まえて、東京都「体罰の定義・体罰関連行為のガイドライン」によれば、教員等による「腕をつかんで連れ歩く」「頭(顔・肩)を押さえる」「体をつかんで軽く揺する」「短時間正座をさせて説諭する」といった行為は、その他に特段の事情がなければ、懲戒権の範囲内であり、体罰には該当しないということになります。

 

4 体罰と暴力等不適切行為との相違

さて、上に述べた「体罰」と前回まで説明してきた「暴力等不適切行為」との相違はどこにあるのでしょうか。

 

ひとつは、同じ行為でも、行為者が懲戒権を有しているか否かにより、体罰であるか否か、が異なります。すなわち、法的には、体罰は懲戒権を有する者しかなしえないのであり、街のスポーツクラブの指導者が暴力を振るっても、それは体罰ではなく、単なる暴力であるということになります。一般的には、懲戒権を有しない指導者の不適切な行為を体罰と表現されることも多いですが、法的に厳密に言うと、正しくないということになります。

 

もうひとつは、教員等の行為が、懲戒権の範囲内であり、不適切といえない場合でも、懲戒権を有していない者が同様の行為を行えば、それは不適切であるとされる可能性があるということにあります。よって、懲戒権を有しない指導者の不適切な行為の範囲は、体罰とされる行為の範囲を包含する、より広い範囲であると言えます。

 

5 まとめ

重要なことは、懲戒権の範囲内であるとされる、教員等による「腕をつかんで連れ歩く」「頭(顔・肩)を押さえる」「体をつかんで軽く揺する」「短時間正座をさせて説諭する」などの行為も、懲戒権を有しない指導者が行った場合、不適切な行為とされる可能性があるということなのです。このことから、懲戒権を有しないクラブチームの指導者は、その意味で教員等よりも指導として行える行為の範囲は狭く、被指導者に対して制裁(懲戒)を加えることはできないということを肝に銘じなければなりません。

 

次回も続いて、この問題について検討したいと思います。

 

 

 

 

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