スポーツ団体の利益相反について②
1 はじめに
前回は、「スポーツ団体の利益相反について①」と題し、利益相反・利益相反取引の定義、一般法人法の定めについて検討しました。今回は、これらに続いて、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「公益認定法」)の定めについて検討を加えます。
2 公益認定法による定め
一般法人が公益認定されれば、公益社団法人または公益財団法人(以下まとめて「公益法人」)となります。統括団体(JSPO、JOC、JPSA、JSC)や殆どのNFは公益認定を受けて、公益法人となっています。
そして、公益法人に関する法律として、公益認定法があり、同法は利益相反について直接的に定めているわけではありませんが、近い概念である「特別の利益」の供与に関して、以下のように定めています。
なお、下記の定めは、公益認定の際の要件であるだけでなく、反した場合には公益認定の取消原因となります。
また、公益認定法に関して、施行令及び施行規則が定められているため、併せて参照する必要があります。
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公益認定法
第5条 (公益認定の基準)
行政庁は、前条の認定(以下「公益認定」という。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、当該法人について公益認定をするものとする。
<中略>
③ その事業を行うに当たり、社員、評議員、理事、監事、使用人その他の政令で定める当該法人の関係者*に対し特別の利益を与えないものであること。
④ その事業を行うに当たり、株式会社その他の営利事業を営む者又は特定の個人若しくは団体の利益を図る活動を行うものとして政令で定める者**に対し、寄附その他の特別の利益を与える行為を行わないものであること。ただし、公益法人に対し、当該公益法人が行う公益目的事業のために寄附その他の特別の利益を与える行為を行う場合は、この限りでない。
<以下略>
【註*】
上記3号の「政令で定める法人の関係者」については以下のとおり(公益認定法施行令第1条各号)。
① 当該法人の理事、監事又は使用人
② 当該法人が一般社団法人である場合にあっては、その社員又は基金の拠出者
③ 当該法人が一般財団法人である場合にあっては、その設立者又は評議員
④ 前3号に掲げる者の配偶者又は三親等内の親族
⑤ 前各号に掲げる者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
⑥ 前2号に掲げる者のほか、第1号から第3号までに掲げる者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持する者
⑦ 第2号又は第3号に掲げる者が法人である場合にあっては、その法人が事業活動を支配する法人又はその法人の事業活動を支配する者として内閣府令****で定めるもの
【註**】
上記4号の「特定の個人又は団体の利益を図る活動を行う者」については以下のとおり(公益認定法施行令第2条各号)。
① 株式会社その他の営利事業を営む者に対して寄附その他の特別の利益を与える活動(公益法人に対して当該公益法人が行う公益目的事業のために寄附その他の特別の利益を与えるものを除く。)を行う個人又は団体
② 社員その他の構成員又は会員若しくはこれに類するものとして内閣府令で定める者(以下この号において「社員等」という。)の相互の支援、交流、連絡その他の社員等に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的とする団体
【註***】
公益認定法第29条第2項で、「行政庁は、公益法人が次のいずれかに該当するときは、その公益認定を取り消すことができる。」とし、同項第1号で「第5条各号に掲げる基準のいずれかに適合しなくなったとき」として、上記「特別の利益」に関する定めは公益認定の取消原因となっている。
【註****】
「事業活動を支配する法人として内閣府令で定めるもの」(公益認定法施行令第1条第7号)とは、当該法人が他の法人の財務及び営業又は事業の方針の決定を支配している場合における当該他の法人(以下「子法人」という。)とされ(同法施行規則第1条第1項)、「法人の事業活動を支配する者として内閣府令で定めるもの」(同法施行令第1条第7号)とは、一の者が当該法人の財務及び営業又は事業の方針の決定を支配している場合における当該一の者とされる(同法施行規則第1条第2項)。
同法施行規則第1条第1項及び第2項の「財務及び営業又は事業の方針の決定を支配している場合」とは、次に掲げる場合をいう(同条第3項)。
① 一の者又はその一若しくは二以上の子法人が社員総会その他の団体の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関における議決権の過半数を有する場合
② 第1項に規定する当該他の法人又は前項に規定する当該法人が一般財団法人である場合にあっては、評議員の総数に対する次に掲げる者の数の割合が百分の五十を超える場合
イ 一の法人又はその一若しくは二以上の子法人の役員(理事、監事、取締役、会計参与、監査役、執行役その他これらに準ずる者をいう。)又は評議員
ロ 一の法人又はその一若しくは二以上の子法人の使用人
ハ 当該評議員に就任した日前五年以内にイ又はロに掲げる者であった者
ニ 一の者又はその一若しくは二以上の子法人によって選任された者
ホ 当該評議員に就任した日前5年以内に一の者又はその一若しくは二以上の子法人によって当該法人の評議員に選任されたことがある者
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(1) 特別の利益供与の禁止の趣旨
特別の利益供与が禁止される趣旨は、公益法人の財産は公益目的事業に使用されるべきものであり、営利事業や特定の者のために使用されることは適当ではなく、特別の利益の供与を禁ずることで公益法人に対する信頼を確保することにあります。したがって、利益相反の規制とは似た概念であるとはいえ趣旨が若干異なるともいえます。
(2) 留意すべき3つの点
公益認定法の特別の利益供与の禁止に関して留意すべき点は3点あります。すなわち、禁止される「特別の利益」の供与の対象となる者の範囲は極めて広い点、「特別の利益」の解釈が曖昧である点、及び特別利益の供与は「禁止」であり一般法人法の利益相反取引のように承認される余地がない点です。
(a) 禁止される利益供与の対象
禁止される利益供与の対象は、「政令で定める当該法人の関係者」であり、公益認定法施行令によれば、①理事、②監事、③使用人、④社員(社団法人)、⑤基金の拠出者(社団法人)、⑥設立者(財団法人)、⑦評議員(財団法人)のほか、①~⑦の配偶者又は三親等内の親族、若しくは①~⑦の婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者、①~⑦から受ける金銭その他の財産によって生計を維持する者、③~⑥が法人である場合その法人が事業活動を支配する法人又はその法人の事業活動を支配する者として内閣府令(上記 註****参照)で定めるものとなり、極めて広範囲にわたります。
(b) 「特別の利益」の定義
内閣内閣府公益認定等委員会が作成した「公益認定等に関する運用について」において、「『特別の利益』とは、利益を与える個人又は団体の選定や利益の規模が、事業の内容や実施方法等具体的事情に即し、社会通念に照らして合理性を欠く不相当な利益の供与その他の優遇」としており、基準としてはかなり曖昧なものになっています。
具体的に、どのような利益供与が「特別の利益」に該当するのか、明らかではありませんが、他の法人に助成金や補助金を出すことについて、それをもって直ちに「特別の利益」に該当するものではなく、不相当な利益供与に当たるもののみ問題となるとされています(「公益法人制度等に関するよくある質問 問Ⅳ-1-①」)。
(c) 特別の利益供与は禁止
「特別の利益」の供与はあくまで禁止であり、一般法人法における利益相反取引のように承認機関が認めれば供与が可能になるというようなことはありません。この点は重要な相違だといえます。
3 おわりに
公益認定法を読み解くには、施行令や施行規則を参照しなければならず、なかなか煩雑であるといえます。また、これまで検討してきたように、公益法人法の特別の利益供与の禁止は、その趣旨からも一般法人法の利益相反取引の制限とは異なるところもあります。次回(最終回)では、これらの定めとGCとがどのように関わるのか検討したいと思います。